CHARLIE'S 23
第2章・暗黒街のボス
一九二〇年代のニューヨークはイタリア・マフィアの温床と化していた。
ラッキー・ルチアーノ。
本名はサルバドーレ・ルカーニア。
アメリカ合衆国のイタリア系犯罪組織、マフィア=コーサ・ノストラの最高幹部で、ギャングスター。
イタリアのシチリア出身で、移民からニューヨーク・暗黒街の大ボスまで成り上がった、伊達男である。
シカゴの大ボス、アル・カポネよりも随分と若い。
後世、彼をモデルにした映画が作られている。
ルチアーノは自室のロッキングチェアーに座り、キューバ産の葉巻を燻らせていた。もう片方には自家製のウィスキー。
アールデコ調の高級家具とインテリアで纏められた部屋は、間接照明の柔らかい灯りが、大ボスに相応しい空間を作り上げていた。
巷は「ブラックマンデー」のパニックから、更に不景気が加速し、失業者が溢れかえっている。それは、流行の疫病のように全米へ、そして、世界へと広がっていった。世界恐慌の始まりである。
ルチアーノは、葉巻を嗜みながら、ほくそ笑んでいた。
シチリアから移民としてやって来たルチアーノは、幼い頃から悪に手を染め、その限りを尽くし、巨万の富を手に入れた。
禁酒法のお陰で、金庫には金が唸っている。この不景気が更に金を生む。
仕事がやり易いように、政界にもタップリ賄賂を注ぎ込んでいる。
敵と言える相手は、このニューヨークには存在しなかった。
深いグリーンの本皮ソファの上で、大型のグレイハウンドが耳をピンと立てて寛いでいる。
グレイハウンドはイタリアが原産だ。
マフィアはイタリアに拘った。
人間に関して言えば、シチリア出身者以外は信用しない。そんな風潮があったくらいだ。
グレイハウンドの名はペスカトーレ。
作品名:CHARLIE'S 23 作家名:つゆかわはじめ