半分
悪魔は一瞬眉を寄せると、そろばんを弾き始めた。さっきよりも時間をかけて計算している。一分ほどたち大きく息をついた。どうやら終わったらしい。
「そうですね……。その願いですと、ざっと残りの寿命の半分を頂くことになりますが、いかがでしょう?」
「なっ、えっ、でも、さっきの大金持ちと比べるとだいぶ差がないか?」
「大変申し上げにくいんですが、あなた様のような自然界の法則を歪めるような願いですと、どうしてもこれぐらいは頂かないといけないんです。逆にお金を出したりといった物理的な願いですと、お安く済むのですが……」
「ちなみに寿命の半分ってのは何年なんだ?」
「残念ですが、そうした残りの寿命がわかるようなことは、教えられない決まりとなってるんです。五年とか十年であればいいんですけどね」
残りの寿命の半分。いかに昔からの願望を叶えるためとはいえ、さすがに大きすぎる代償だ。とはいえこの機会を逃すには惜しい。寿命の半分。半分。半分か……。半分? そうだ。この手があった。
「透視能力を半分にする代わりに、払う寿命を半分の半分。つまり四分の一にすることはできないか?」
能力を半分にすれば裸は見ることはできないが、下着姿は見えるはずだ。なんだか惜しい気もするが、背に腹は変えられない。悪魔は俺の言葉に何度も頷いている。
「なるほど。お得なAプランですね」
「Aプラン?」
「Aは悪魔のAで、願いを半分にする代わりに、払う寿命も半分。まあ、今あなた様がおっしゃったことと同じですね。このプランをご利用ですか?」
ちょうどいい。すでにこんなお得なプランがあったとは。
「よし。じゃあAプランで」
「承りました。では繰り返させていただきます。Aプランで透視能力をご希望ですね?」
「はい」
「ではこの契約書にサインをお願いします」
悪魔はいつの間にか書類一式を出していて、ボールペンを手渡された。記入欄には名前のほかにも、何故か住所や本籍地、電話番号まである。契約書をめくってみると、複写式になっていた。書き終わると、悪魔はにこやかな顔をしていた。
「では、あなた様の残りの寿命をいただきます」
悪魔は手を俺の頭の上にかざした。そこからなにかあるのかと思ったが、それだけですんだらしい。体を確認してみたが、どこにも寿命が減ったような感覚はしない。
「これで契約は終了です。すでにあなたはお望み通りの能力を手にしています。あなたが望めば力を発揮できるでしょう。私は服を着ていないので、今は試しようがないですけどね」
俺は悪魔のジョークに苦笑した。悪魔も笑っている。
「ご契約本当にありがとうございました。これでうちの家計も助かります。ではまたご利用の際には呼んでくださいね」
そう言い残し悪魔は消えた。かと思ったらまた出てきた。
「すいません! お客様の控えを渡し忘れてました! ほんとすいません。そそっかしくて」
そう言い残し今度こそ悪魔は消えた。