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半分

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 辺りには悪魔がいたという痕跡は何も残っていない。今のは白昼夢だったのだろうか? だが、手元のお客様控えが現実だったと物語っている。
 だとすれば今の俺には透視する力があるはずだ。俺はそれを確かめるため、心を躍らせて大通りへと飛び出した。
 大通りには老若男女多くの人が行き交っていた。これだけいるのであればよりどりみどりだ。さっそく近くを通りかかったスタイルのいい女性に力を試してみることにした。
 悪魔は望めば見えると言っていた。どうやるのかがよく分からなかったが、とりあえず俺はその女性の体を凝視してみた。だが、じっくりと見てみたものの、特に変わりは無く、女性から怪訝な目で見られ足早に通り過ぎられるだけだった。
 やり方が悪いのか? その後も別の女性で何度も見方を変えてみたりしたが、結果は同じだった。そのうち、誰かが通報したのか、警察がうろついていたので慌てて逃げた。
 
 何故だ。公園のベンチに座り俺は考え込んだ。もしかしてあの悪魔にだまされたのだろうか? いかにあんな悪魔らしくない態度をとっていたはいえ、それが演技だったとも考えられる。
 俺はたまらず俯いた。だがそこである異変に気づいた。何故か俺の下半身が丸出しになっていたのだ。いや、下半身どころか全身何も着ていない。慌てて体を隠したが、手には服の感触がしっかりと伝わってくる。
 もしかすると――。俺は顔を上げ、道行く男性を凝視してみた。どの男性も素っ裸で歩いているのに、誰もが平然とした顔をしている。
 俺は裸の男性を眺めながら、悪魔が言っていた言葉が頭を駆け巡るのを感じた。『そそっかしいせいで、ミスも多くて』『そそっかしいせいで、ミスも多くて』『そそっかしいせいで、ミスも多くて』……。
 
 どうやら、悪魔は透視する度合いを半分にするのじゃなく、男性か女性かで半分に分けてしまったようだった。しかもよりにもよって、男性を見えるようにしたようだ。
 あまりのことに悪魔にクレームを入れようかとも思ったが、あの姿を思い出すとなんとなくかわいそうなのでやめた。
 だけどこんな力のために残り寿命の四分の一とは……。俺はしばらく呆然と裸の男たちを見ていたが、そこでふと脳裏にビリビリと電流が走る感覚がした。あの中学の時の美術室の光景が蘇ってきたのだ。あの時、ヴィーナス像の隣のダビデ像が、同じように幻想的な姿を見せていたのを思い出したのだった。
 男の体もいいかもしれない――。俺は道行く人を観察しながら思った。
作品名:半分 作家名:ト部泰史