半分
「あ、悪魔だ……」
「へえ。よく私が悪魔だとわかりましたね」
「いや、あの、それ」
俺は恐る恐る悪魔の額を指差す。悪魔は人外な体をしているうえ、額にはご丁寧にもひらがなで『あくま』と書かれている。これで悪魔じゃなかったら驚く。
「いやね。こうしておくと飲み込みが早くて助かるんです。タイムイズマネー。時は金なりって言うでしょ?」
突然のことにまだ現状が把握できていないが、ひとつ確かなことはいまこうして悪魔と話しているということだ。ひとまず俺は、一番聞かなければならないであろうことを聞いた。
「……それで、悪魔が俺に何の用だ?」
「そうですよね。それが一番気になりますよね。至極もっともな質問です。まあ一言で言ってしまえば、あなたの願いを叶えに来ました」
「それは代わりに命をいただくとかそういう?」
「そうです。けどそこは他者の悪魔様よりも、良心的なプランとなっておりましてね。願いの大きさに比例した寿命をいただくことになっているんです。なので、寿命を払ってしまえば、死後魂を頂戴することは一切ないのです」
「……なんだか携帯の契約みたいだな」
「ええ。やはりこの職業も人間様からの信頼から成り立っている部分がありますからね。こちらとしても契約をしてもらい、魂をもらうことが出来なければ、商売あがったりなんです」
「意外と切実なんだな」
「分かってくれますか。私の場合だと特にそそっかしいせいで、ミスも多くて他の悪魔と比べると営業成績が悪いんですよね。親からは男なんだからしっかりしろってよく言われますし」
「そういうことはあまり言わないほうがいいんじゃ?」
「あっ! そうですよね。そうですよね。いまのは聞かなかったことにしてください!」
悪魔は手をぶんぶん振り回し、顔を真っ赤にしている。なんなんだろう、こいつは。
「で、あのー、それで、契約の話をして欲しいんだけど」
「えっ、ああ、すいません。ええーとですね。この契約というのは寿命と引き換えに、一人ひとつの願いを叶えてあげる事ができます。寿命は例えば大金持ちになりたいとかですと、あなた様の場合はですね……」
悪魔は手から煙とともにそろばんを出すと、ぱちぱちと計算し始めた。
「おおよそ十年といったところですね」
「確かに良心的な気がする」
「そうでしょう? これでも身を削って寿命を払う年数を減らしてるんですから」
悪魔はふふんと胸を反らした。さっきからの挙動を見ていると、外見の割にとても悪魔には見えない。
「それで、あなた様の願いはなんでしょうか? 見たところ大きな欲望をお持ちのようです。まあだからこそあなたの前に現れたんですがね」
願い、か。せっかくこんなチャンスをもらったのだから有効に使いたい。だが、大きな願いほど寿命をとられるとなると、慎重に考えなくてはならない。
そこで、さっきまで頭をもたげていた、女性の裸への願望がむくむくと沸き起こってきた。そうだ、どうせなら昔からの願望を叶えよう。裸を心置きなく見れるとしたらこの願いしかない。
「服を透視する能力をくれ」