二人の王女(4)
あすかは、欠伸を噛み殺して云った。考えてみれば、昨夜も眠っている途中にあの光に起されてしまった。あまり寝ていないのだ。夢の中でも、こんなにも眠たくなるものなのだろうか…
そのときだった。アークが「しっ」と、人差し指を立て、黙るように合図をしたかと思うと、焚き火の火をさっと消した。
一瞬あすかには何が起こったのかわからなかった。だが、何か異常の事態を察知したらしいことだけはわかった。すぐさま、隣で眠っていたマルグリットとシェハが目を覚ました。
「何事だ?」
声を殺して、マルグリットがアークに問うた。
「誰かいるようだ」
気配を押し殺して耳を澄ましてみる。すると、馬の足音が聞こえてきた。足音は、さほど距離のない場所で止まったようだ。そしてしばらくして、人の話し声が聞こえた。
「…さきほど明かりが見えたようだが、精霊らは起きていないだろうな」
「あぁ、もう大丈夫だろう。ここであれば、森からは距離があるから精霊たちも追いつけはしない」
どうやら声の様子から、男性が二人居るようだった。
マルグリットたちは、目配せをし合い、その人物らの正体を窺っているようだった。
二人の男性の会話は続いた。
「今日はここで夜を明かすとしよう」
「しかし、事態は一刻を争うぞ。セザン国王の身体はもう一週間も持たない。休んでいていいのか?」
「だが、長旅になる。それにこの暗さ、明かりをつけて走るのは精霊たちに気付かれてしまう恐れがある。夜明けと共に出発しよう」
マルグリットは声にならない小さな声で、耳打ちするように云った。
「セザンと云うと、サガエル国の者のようだな」
「あぁ、話の様子だとどうやらあちらの国の国王も、一刻を争う病態のようだ」
「サガエル国って?」
あすかが聞くと、シェハが「すぐ隣の国です」と静かに答えた。
再び、二人の男性の声が聞こえた。
「しかし、ラズリーの花は本当に存在するのだろうか」
「わからない。しかしもはやその花以外にあの毒を鎮められるものはない」
その言葉に、三人はまた顔を見合わせた。夜闇に目が慣れてきて、三人の表情がうっすらと見て取れる。三人とも険しい表情をしているのがわかった。
「どうやら、あの毒に冒されているのは、我々の国だけではないようだな」
「それは厄介だ」
マルグリットは一層厳しい声で云った。