二人の王女(4)
「おいしい!」
「コウモリの煎じ茶です」
コウモリ、と聞いてあすかは思わず吐き気がこみ上げた。
「げぇ…」
「げぇとは何だ、アスカ。コウモリは神聖なものだ。毒消しだけでなく、疲労の回復にも役立つ。その命の尊さに感謝して飲むのだ」
マルグリットは一気に液体を飲み干した。
アークも同じように飲んでいたが、シェハのみが何も口にしていなかった。
「シェハは…飲まないの?」
あすかがおずおずと聞くと、シェハは切れ長の目をより細めて云った。
「器は三つしかございませんので」
その言葉に、あすかは自分が旅の仲間に増えたために器が足りなくなったことを瞬時に理解した。
「ごめんなさい、あたしが遠慮もせずに飲んでしまって。これは貴方のだわ」
返そうとすると、シェハは真っ白な手を前に出し、「いいえ、アスカ様がお飲みください」ときっぱり云った。
「なら、一緒に飲みましょう。あたしはもう飲んだから、シェハ、貴方がどうぞ」
そう云って陶器のコップを差し出すと、シェハは「いえ…」と何故か顔を真っ赤にして云った。
「どうしたの?」
その答えを、アークが云った。
「占術師は、女性と何かを共有することに慣れていないんだ。だから、照れたのだろう」
涼しい顔をしてきたシェハが、はにかんだような笑みを浮かべた。年齢はあすかよりも上のように見えるが、そのときのシェハはなんだか弟のように可愛らしく感じた。
「器を共有するくらい、気にしないでよ」
そう云って無理矢理器を手に持たせ、ようやくシェハも煎じ茶にありついた。
その夜は、二人ずつ順番に眠ることになった。
あすかは先に、アークと共に眠り番をすることとなった。
焚き火に身を寄せて、身体を温めながら、あすかはこの世界のことについてアークに話を聞いた。
「我が国の国王は、特殊な毒に冒され僅かな命となったのだ。我々は、その命を救うべく、毒を唯一解くことができると考えられるラズリーの花を得るため、今その花の咲くエルグランセの洞窟へ向かっているのだ」
「毒?」
「アスカは本当に何も知らぬのだな。自然から発生した様々な毒が、人の身体を蝕むことが多々あるのだ。しかし大抵の毒は、占術師の薬の調合で抑えることができる。しかし、今回国王を蝕んだ毒は、占術師の手には負えなかった。放っておけば、国王はおろか、国民たちをも蝕み、国は崩壊してしまう」