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KMJストーリィ―Attachment of sixty―

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「……で? 今のノロケだか何だかよく分からない話が、お前の聞きたい疑問にどう繋がるっつーんだよ言ってみろ、こら」
話し終えた瞬間、額を小突かれる。というか、どつかれる。
コツンじゃなく、今、ゴツンだったぞ。
「痛いーっ」
「痛くしたからな、そりゃ」
文句を言ってやったのに、目の前のテーブルに行儀悪く腰かけた男は、気にする様子もなかった。
むしろ、こちらに呆れたような視線を送ってくる。
「あのな、ジュリー」
「何よ、カイ」
「俺は確か、何万年も続く執着ってあるかどうかという超絶に意味不明な問いを、お前に投げかけられたと思ったんだが、違うか?」
そもそも問い自体が意味不明だったが、なんて。ぶつぶつぼやかれても、あたしは聞く耳なんて持つ気ない。
「だって疑問に思ったんだもん」
「だから何が」
言ってみろほら、と。挑発なんだかよく分からない態度でこっちを見下ろすカイの態度は、それこそ傲岸不遜という言葉が似合っちゃうくらいにデカい。
何だってこんな奴に話ふったんだろう。自分の選択を悔いたけど、今更、遅い。
「あの子が――って、あたしの双子の姉だけどさ。星の光ほど長い願いが叶うんだったら、あたしとかと天秤かけて、そっち取っちゃうかもって言うからさ」
「それの何処が悪い」
「悪くはないけど、やっぱ何か寂しいじゃない」
「そりゃお前がガキ……って、ちょっと待て」
「誰がガキっつか、カイがおっさんってことじゃないのそれ。……は? 何を待て?」
そっぽ向いて興味なさげに悪口言われれば、当然、腹が立つ。
起こって当然と突っかかろうとして、あたしは、カイの言葉に首を傾げた。
「何よ?」
「お前のノロケ、いつの話だ」
「だから何でノロケ。えーっと、あたしが家を出されちゃう前だから、多分、六、七年前?」
思い返しながら指を折ってやると、がくっとカイの肩が落ちた。
何なんだ、一体。
「何よ。あたしが家を出される経緯なら、もう教えたから知ってるでしょうに」
「ああ。意味不明な旧家にプラス、お前の特殊超常能力絡みで跡取り問題泥沼化。組織に引き取られな、ありがち転落人生? つーか、問題はそこじゃないだろうが」
「誰が転落人生っ。……あ、メイはともかく、カイとチーム組まされてる時点で、転落してるか?」
「違うっ」
――そもそも、何でメイはともかくなんだ。なんて、カイはぼやいているけど、そりゃ親切で優しい美人のお姉さんと、口が悪くて態度がでかくて意地が悪くて良いところは顔とスタイルと頭だけとかいうお兄さんを比べたら、大概の人間は、メイの味方につくだろう。
とか心の中で思ってると、読んだのか何なのか。またデコピンされた。
読心は、割と親しい能力者同士で相手の力が強すぎると勝手にされちゃうっぽいこともあるっていうから、するなとは言わない。でも痛い。
「あのな。八歳だか九歳の子供がする会話か、それ?」
「何か問題でも」
「あるだろ。まあ、お前の語るところのベタ甘姉妹っぷりよりは、問題少ないかもしれないが」
「姉妹仲が良くて、何の問題あるのよ」
「仲良すぎて気色悪いっつの。……というか、俺の近場には、こういうのしかいないのか」
「は?」
ぼやくように呟かれた言葉は、後半、どうもあたしに言われたようには聞こえなかった。
カイの、色素が薄いどう見ても日本人には見えない瞳が、一瞬だけ、何処か遠くへと彷徨ったから。
「誰の話?」
「……あー」
聞いてやると、如何にも失敗したと言いたげな表情が、目の中に一瞬だけよぎった。
多分、誤魔化しきったつもりだろうけど、甘い。さすがにこっちも、二年も三年もチーム組んで一緒にいるわけじゃない。
だけど、聞いていいのかな。どうだろう。
そんなことを考えてると、「足りない脳みそで余計なことは考えなくていいから」と、苦笑交じりに声をかけられた。
やっぱり、むかつく。
「随分昔に知ってた、女の話」
「カイの言うところの随分昔って、つまり何年前よ?」
視線の遠さの割に話が至近そうな気がして、あたしは思わず首を傾げた。
確かに年齢不詳で売ってるし、出会って数年経つのに姿が変わってない気もするけど。カイもメイも、見た目的には一応、二十歳そこそこだというのに。
けど、カイはにやりと笑った。
「お前には考えもつかないような昔」
「あのね」
「まあ、その頃知ってた女。と、その母親替わりの親友とやら。あれも、お前とその姉とやらに負けず劣らずベタ甘で」
「それの何処が悪いっつーか、カイ。それ、ヤキモチ妬いてただけというオチ?」
「黙秘」
「……おい」
それって白状してるようなもんじゃないだろうか。
「その余波をあたしに回すなーっ。迷惑だーっ。痛いーっ」
「煩いよ、お前」
「……何の騒ぎなんですか?」
噛みつくように叫んでやると、辟易した様子のカイの向こう。開いた扉の外で、メイが不思議そうな顔をしていた。
メイが首を傾げた拍子に、顎の辺りで切り揃えられた艶やかな黒髪が流れる。
「ジュリー。また、カイが何か?」
「メイー。カイが苛めるー」
「……人聞きの悪い」
やれやれと、わざとらしく肩を上下させてみせるカイを睨みつけて、あたしはメイへとまとわりついた。
「あのねー。カイがねー」
「おい、ジュリー」
咎めるようにカイの視線がこちらを向くけれど、そんなことは知ったことじゃない。
あたしには関係ない。
「自分がふられた腹いせ、あたしにするんだよー」
「違うだろ、それは。大分……」
頭痛を堪えるように額を押さえるカイをあたしとを等分に眺めて、メイがくすりと、何処か痛めな苦笑を零した。
あれ? と思うあたしの気持ちを察したのか。もう一度、今度は綺麗に微笑みを返してくれたけれど。
「そうですね。……彼女には、カイ、随分ときっぱり、ふられたようなものですしね」
「メイ……」
「あれ、メイも知ってるんだ」
「ええ」
苦り切った顔をするカイに微笑んでみせながら、メイは頷いた。
「ジュリーに似た人でしたよ」
「へえ?」
「似てるかー?」
「とても似てると思います」
「ふぅん」
そんなもんかね、などと言ってるカイが、ほんの少しとぼけたような顔。ということは、多分、メイの言ったことは間違ってないんだろう。
どんな人だったんだろう?
あたしみたいに大事な人がいて、あたしに似た人。カイをふったって人。いや、それはこの際、どうでもいいけど。
そんなことを思ってちょこっと首を傾げると、こっちを見やったカイが、ほんの少し笑った。
いつもの皮肉っぽいものよりも、数段、素直に綺麗な笑み。
普段からそうして笑ってりゃ、も少し株も上がるのにと思えるような。
そして、そんな笑みで、目を閉じた。
「結構、いい女」
「……へえ」
これも所謂ノロケなんでしょーか、もしもし。
「だけど、随分と酷い女」
「カイ」
何かを押しとどめるような、含んだメイの声に、カイは苦笑で返した。
「だけどな」
とん、と。テーブルから降りて、カイは自分の足先を見るように呟いた。
「それこそ、百年、千年、万年。……六万年だろうと。それだけ続く執着も、手の中にあるもの全部捨てるのも。あいつのためなら、やったっていいと思うよ」
「…………」