「夢の中へ」 第一話
「腹が空いただろう?待ってろ、今飯を作ってやるから。こんなところだからコメはないぞ」
「うん・・・手伝います」
「そうか!助かるな。そこの鍋に水を汲んできてくれないか。獣道を少し上ったところに清水が湧き出ているから汲んできて」
「獣道?」
「ほらそこに見えるだろう?草が倒されている細い場所が」
「はい・・・」
「足を滑らさないように気をつけるんだぞ」
まどかは言われたように森の中を登ってゆき、岩肌から勢い良く流れ出している清水を見つけた。喉が渇いていたので先に手で受けて口に運んだ。
「美味しい!こんな水が飲めるだなんてウソみたい」
鍋に八分目まで汲んで滑り落ちないように帰り道をゆっくりと下って行った。
食事は鍋で沸かした湯に納屋に蓄えてあった里芋とごぼうを煮ただけのものだったが、塩味と空き腹のためか喉を難なく通って行った。
「すまんな、こんなもので。いのししが捕れたときはご馳走なんだが、ここのところ出てこないから罠にかからないんだ」
「いのしし?近くに居るの?」
「居るぞ。怖いか?」
「うん・・・怖くないの?」
「初めは怖かったけど、今は慣れたな。そのうち罠に引っかかるから食べさせてあげるよ」
「わたし・・・行くところも帰るところもないみたい。ここはどこなのかも解らないし・・・」
そう言うとまどかは泣き出してしまった。
作品名:「夢の中へ」 第一話 作家名:てっしゅう