Never see you
僕達は地下鉄に乗り、街の中心部に向かった。
古さを残したままのアーケードの下町商店街を歩くと、頭上には仙台七夕祭りの大きなくす玉が付いた吹流しの飾り付けが、整然と並んでいた。ちょっと涼しくなった8月終わりの風が揺らしている。
「ちょっと、寄っていこうか?」
「どこに?」
「神社。祭りで有名な山車が奉納してある神社なんだ」
僕は彼女の手を取り、小さな石段を登り大きな銀杏が繁る境内に足を踏み入れた。街の中にぽっかり浮いたような緑に覆われた広場と、歴史を感じさせる社寺は時が止まったような感じがして僕は好きだ。
「何をお参りするの?」彼女が聞く。
「うん、ちょっとね・・・」
「じゃ、私も・・・」
大きな鈴を鳴らし、手を合わせる二人。
「何をお願いしたの?」僕は真剣な顔の彼女に聞いた。
「ナ・イ・シ・ョ・・・。あなたは?」
「・・・・うまく、エッチが出来ますように・・・かな」
「ふふっ、そうだろうと思った」
馬鹿な冗談だろうと彼女は思ったに違いないが、本当だった。
それから僕達は古い商店街から、新しい商業複合施設に向かって歩いた。
ショッピングセンターの真ん中を浅い水の運河が流れている。曲線を多く使った建物は、アメリカのデザイナーが手掛けてどこか垢抜けていた。
運河の見えるカフェでランチを注文した。
久しぶりの再会の会話は決まって女の心配事から始まる。
「しばらく会わない間に、ずいぶん遊んでいたんじゃないの?」
「そんなことないよ」
「いろいろ噂は聞いてるわよ」
「勝手な推測でマイナス思考はやめてくれないかな」
「あら・・・そう・・・」
「君こそ寂しさは治ったの?」
「寂しいから、ここに来たんじゃない・・・」
「会いたくて来てくれたんだ」
「あたりまえじゃない。会いたくてわざわざ来たのよ」
「他には?」
「他にはって?」
「・・・・したくなったとか?」
「馬鹿・・・・だけど、それもあるかも・・・うれしい?」
「ああ、うれしい」
僕は久しぶりの彼女の白い手に触れてみた。ちょっと冷たい手は柔らかく、夏のワンピースの生地のようにすべすべしていた。
「君が予約してたホテルはすぐそこなんだけど食べたらチェックインする?」
「うん・・」
「うん」と言った彼女のはにかんだ様な表情は何を想像してるのだろうか。
久しぶりの再会で、すぐさまベッドインする。これは、はしたないのだろうか、それとも寂しいのだろうか。お互いを理解するのは心より体に聞く方が分かり合える時がある。
手と手を取り合い、指を絡ませ、体温を感じ合う。どんな探り合いの言葉より、正直な自分をさらけ出せる。それを二人共求めているのなら、はしたないという道徳は運河にでも捨ててしまえばいい。
僕達はホテルに向かった。
作品名:Never see you 作家名:海野ごはん