あなたとロマンス
夏のロマンスは
ここ連日、オリンピックのサッカーをスポーツバーで見ている。
友人が大のサッカーファンなので、「お前も来いよ」ということで、僕は深夜1時のキックオフに合わせて、若者が大勢集まるバーに通っていた。
ビルの7階にあるそのバーは店内にいくつものモニターがあり、どの席にいてもよく見えるので人気があった。
日本チームは調子がよく勝ち上がり続けてるので、3日に2回は通った。
まあ、独り者の僕としては淋しい夜にならなくて済むのだが、連日の寝不足と熱狂にいささか疲れていた。
ゲームは2点差でほぼ日本チームが勝利を手中にしていた。
テーブルの5本目のビールも空になり少し眠気が襲ってくる。
ガチャン!!
グラスが割れる音がいきなりしたので、僕は自分が粗相をしたのだろうかとハッとなった。
さっきから隣で応援していた30代の女性がグラスを誤って落としたらしい。
「大丈夫?」
「あっ、いえ・・・いいんです」
「危ないから拾ってあげるよ」
僕たち二人は喧騒を横にテーブルの下に潜り込み割れたグラスを拾いあった。
「ありがとうございました」微笑む彼女は、よく見ると真っ黒に日に焼けていた。
「ずいぶん真っ黒だね」
「サーフィンしてるんで・・・。焼きすぎたかな」
「今時、真っ黒な女性は見ないな。実は僕も昔サーファー。だけど今はさっぱり」
「あら、してたんですか?」
「おんなじように真っ黒だったよ」僕は笑った。
「毎回来てるんですね、ここ」
「知ってたの?そうあいつのおかげで連チャンなんだ」
僕はペインティングした友達を指差した。
「私も友達と一緒なんです」彼女も指を差した。
「お互い毎回来てるって訳か、僕の事を知ってるみたいだし」
「ええ、いつも派手なアロハを着てるなって思って」
「目立つ?」
「結構!でもいい柄ですよね」
「アロハが好きで、コレは古着屋で500円」
僕は自慢気に超安のアロハをつまんで見せた。
「500円?エッ、ぜんぜん見えない」
「モデルがいいからね」
「どこの古着屋ですか」
僕は店の住所を教えると「今度行ってみれば」と促した。
「一緒に連れてってもらえません?」
「いいよ。いつ?」
「今日は?」彼女がいたずらっぽく笑って言った。
「夕方仕事が終わって、どうせまたこのバーで応援しなくちゃいけないから時間潰し」
「いいけど、即決なんだな」
「何でも直感で生きてるから・・・」屈託なく笑う彼女に好感が持てた。