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なつきすい
なつきすい
novelistID. 23066
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カフェ・サニーディサンデー

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自分たち七人は、マスターが円滑に暮らしカフェを恙無くやっていくための協力者である。と、同時に恋敵でもある。そこにはどうしようもない矛盾が生じる。
 例えば、見た目。
 例えば、声。
 もしそれが彼にとって好ましいものであるならば、自分以外の六人のそれも同様になる。或いは、逆に好きなひとの声や見た目を好ましく思うようになるならば、誰かひとりが距離を詰めれば他の六人にもその効果は及ぶ。
 自分たちはとても近い存在だ。それは認める。生まれ育ちも、見た目も、声も、その心のあり方も。けれど、同一の存在ではない。
(ひなたちゃんならみんな好き、とか言われたら、嫌だろうな)
 それでも、全然好みじゃないと思われるより、いい。こんな複雑なことがあるだろうか。
「……ひなたちゃん、どうかした? 大丈夫?」
 ふと、この話題を振った当の本人が、心配そうにひなたを見上げていた。
「それかごめん、もしかしてもうマスターと付き合ってたりした?」
 少し慌てた声の問いに、ひなたは首を横に振った。
「……あたしなんかじゃ、だめですよ」
 零れた声のトーンが思ったよりも低くて、自分で驚いた。
「マスターより一回りも年下だし、無駄にでかいし、かわいくないし」
その言葉に、彼は首を少し傾げた。しかし、表情が怪訝そうなそれに変わり、妙に可愛らしいその仕草との間にずれがある。
「マスターって年上で小さい子が好きなの?」
「え?」
「今のきみの言葉を解釈するとそういうことになるよね」
 ひなたは首を振った。知らない。そんなことを聞いたこともない。
「でも」
「それはきみの思う、モテそうな女の子の基準だろ、ひなたちゃん。実際さーあ、友達のお母さんで美人だったり性格良さそうだったりした人なんてどれぐらいいた?」
 そう言って、彼はにやりと笑う。
 確かにそれはその通りで、失礼な話だが、ひなたの目から見て大してかわいくなくても、どう考えても性格が悪そうでも、一見どこが魅力なのかがわからない人でも結婚して普通に暮らしている。つまりは、彼女を選んだ誰かにとっては、彼女は魅力的であったのだろう。けれど。
「超わかりやすく面食いのあなたが言っても説得力ありませんよ」
「それは僕の話だろ? マスターの基準はどうなのって話をしているんだよ、今は」
正直もう少し頭いいかと思ってたんだけどなぁ、そう言ってため息をつく彼に苛ついた神経を、深呼吸で抑えた。少なくとも、ひなたの知っている「彼」は、こんな風な言い方をする男ではない。やはり近いけれど違うのか、それとも、平気そうに振舞っているとはいえ、例の核兵器級彼女とのあれこれや、もう三日続いてる事実上の軟禁生活のストレスのせいかもしれない。携帯やパソコンも含めた一切の外部との連絡も絶たれているのだ。自分が、七日間あるべき世界に帰れなかったときとは、状況が違いすぎる。
 それにしても。 今回は国際問題が絡んだ結果よりややこしくなっているとはいえ、毎回毎回こんな目に遭い続けて、いい加減懲りないものだろうか。
それどころか、毎回毎回そんな危険人物に平気で個人情報を晒し、心の裡を見せる。
「……告白したり、付き合ったりするのって、怖くないんですか?」
 気付けば、そう問いかけていた。なんで、と彼は首を捻る。
「だって、怖くないですか。全部を知ってるわけじゃない相手に、そんなに自分を預けてしまって。騙されたり、ひどい目にあったりするのが、怖くないんですか。嫌じゃ、ないんですか?」
 その言葉に、彼ははっきりと即答した。
「嫌じゃないよ」
 その表情はまっすぐで、ひなたは思わず姿勢を正した。いつも相方であるところの彼とゆるゆると話しているか、或いは恋愛絡みでなんらかのダメージを受けているところばかり見ているから――とはいえ、ひなたの知っている彼は今目の前にいるこの男ではなく、彼ととても近い、別の人物なのだが――、この顔が、この声が、こんなに真摯になるところをひなたは初めて見た。女の子を口説くときはこうなのかもしれないけれど。
「僕だってさ、別に痛い目に遭いたいわけじゃない。つらいのも怖いのも避けたいよ。一番好きな子と特に大変なことにならずにずっとラブラブでいられるならそれがいいさ。でも、どの子とのことも後悔してない。好きだったのは本当だから、それを悔やんだり、なかったことにしたり、悪い思い出にするほうが、僕はずっと嫌だ。だから、嫌じゃない」
 視線を受け止めきれず、ひなたはたじろいだ。それに気付いたのは、彼はふっと表情を緩め、からりと、ひなたの知っている彼とよく似た、やや皮肉さのある笑い方で笑ってみせた。
「ま、今回はマスターとひなたちゃんにも迷惑をかけたし、そこは悪いと思ってるよ。僕になにが降りかかってもそれは僕自身が選んだことだからいいけど、迷惑かけるのは、嫌だからね」
「いつも相方さんには迷惑をかけてるじゃないですか」
 思わず笑って、そう言うと、しかし返ってきたのは予想外の言葉だった。
「でも、あいつはそれが楽しくて僕といるんだよ」
だからいいんだ、と言う。その言葉は、噂の彼本人、とよく似ているのであろう、同じ立ち位置の男からも聞いたことがあって、けれどやはりそれはひなたには理解し難い感覚だ。
「それが不思議なんですよ。確かに退屈はしなさそうですけど、巻き添え食って危ない目にあったりするかもしれないじゃないですか」
「実際遭ってるよ。僕と一緒に逃げる途中にその子の投げた手榴弾の爆発に巻き込まれて一緒に入院したこともあるし、拉致されて僕をおびき出すための人質に使われたこともあるし」
え、と、ひなたは流石に目を丸くした。それはもう、ちょっとしたトラブルの域を越えてほぼ刑法が絡む類の事象だ。本人がその手の出来事に頻繁に巻き込まれていることは知っていたけれど、彼の巻き添えも十分に巻き添えのと呼べる範疇を越えている。
彼はニヤリと笑って、言葉を失ったひなたを見つめた。
「だから言っただろう? ひなたちゃんの価値観はひなたちゃんの価値観でしかないんだ」


 階段を昇り、店舗部分への扉を開けると、そこには彼女の良く見知った、あの小柄で外見だけは愛らしい彼とその相方の姿があって、なんだか頭がくらくらした。先程したあの会話は、彼としたものではないのだ。
「や、ひなたちゃん。ごぶさただね」
 この彼は先週の日曜、健康上のトラブルに見舞われて寝込んでしまっていたため、カフェには来なかった。勿論その要因は女性絡みであるのだが。それにしてもまったくごぶさた感がないのだけれど、そんなことを言えるはずもない。やはりこの空間は、あまりに非現実的なところなのだと改めて実感する。勿論、自分によく似た六人と出会ったときに比べれば、その衝撃は大したことはないけれど。
「お久しぶりです。お加減はどうですか?」
「ん、まあ良好良好」
「ここのところは外食が続いてますしね」
 にこにこと長身の彼は言う。「今度は、台所を壊してしまったので」
「はぁ」