世界に挑む平成建国政権 第1章
「・・・袋が強奪・・・」男は頷き再び喋る「中身・・・・場所は・・・」
轟は切れ切れの声を聞く。110番通報らしい。轟は男達に駆け寄り、
「怪我はありませんか?」
「幸い怪我は。朝からどえりゃ事になった」通勤帯も過ぎた9時も少し回った所である。
「お金のようには見えませんでしたが」
「金より大事な賛否の葉書ですゎ。局留めを引取ったとこでした」轟は理解した。
「いやに遅いですねパトカー。110番したんでしょう、サイレンくらい聞えても」
広い道ではないが県警本部と大して離れてない目と鼻の先である。
「ええまぁ。ちょこっとかかるが直ぐ行って」轟が理解不能と首を傾げる。
「私らにも理解できませんよ。時にあなた、バンのナンバー見ましたか?」
視力1.5の轟は記者の本能で抜かりなく後部プレートを追ったが、
「ナンバープレートが隠されていました」
およそ30分も過ぎてパトカーがやって来た。野次馬が集る。轟は離れて携帯する。
「国民の賛否を問う例の葉書が大きな袋ごと強奪された。その現場に偶然遭遇しました。今から記事を送ります」轟の電話に対し"何の目的で出張したのか、市長と知事の談話をとってサッサと帰れ"と命令された。編集部の返事は取付く島がなかった。
乗用車の中、警察庁長官・山城は出迎えの車に乗り出勤途上である。後部席に座り朝刊を取出した。愛知県警本部長の猟銃狙撃の見出しを眺める。記事は受けた報告と若干食い違うが幸い車の前輪に命中しバンクだけで事なきを得た。
警察の威信をかけているが犯人の目星はまだない。県警は暴力団取締りの反発を第一に疑っているが山城には他に思い当たる筋があった。マスコミはどこも報道しなかったが、2日前の賛否葉書の強奪事件に対するパトカー派遣と、その後の捜査に問題を感じた。
あの電話した中西に疑念が湧いた。敢えて狙撃を逸らせた警告と考えるなら筋が通る。彼の云う排除する気なら彼らの狙撃銃を使うだろう。山城は改めて車の防弾に信頼を寄せた。と同時に警察管区本部長と北海道警察への長官通達だけでは不徹底だと悟った。今日にも県警本部長会議の招集を決意した。
国会議事堂・地下通路、即応隊が金属の盾に身を隠し哨戒陣地に近づく。
「近づくな!! 撃つぞ!!」哨戒兵が積上げた砂袋に身を伏せて叫ぶ。
即応隊が盾に隠れ腹這いしながら前進し、激しく銃撃する。哨戒隊が応戦する。
「衆院別館の地下通路で戦闘中」哨戒隊指揮官が通信機に向って叫ぶ。
即応隊が更に近づき哨戒隊陣地に手榴弾を投げる。哨戒隊が後退して逃げる。大きな爆裂音が響く。哨戒隊指揮官が導火線に点火する。
「点火!! 逃げろ!! 逃げろ即応隊!!」哨戒隊指揮官が叫ぶ。
両側壁の導火線が激しい火花を散らせて走る。
「退却!! 退却!!」即応隊指揮官が叫ぶ。
轟音と共に猛烈な土煙が舞上がる。通路が崩れ落ち無残な廃墟となる。
衆議院議場・傍聴席、香山が議員のいない議場を眼下に眺め怒気を露に電話する。
「侵入するなと伝えていた。結果は判っている筈だ。議員を射殺する」
「早まるな!! 待て、真相を糾す」南原の必死な声がする。
「今回は即応隊にも逃げる余裕を与えた。次からは容赦しない」
「2度と侵入させない」
「我々の戦闘力を試したのか?」
「違う!! ・・・統率の乱れだ」
「統率の乱れだと!? それでも精鋭部隊か」香山は顔を歪め、怒鳴り携帯電話を切る。
防衛省統合幕僚監部・応接室、統合幕僚長と新田、内閣官房副長官が集う。
「入院中だったがオチオチ寝てもおれん。もう4週間の膠着、どうお考えか?」
やつれた顔の官房副長官が統幕長と陸幕長・新田を交互に眺めて問う。
「治安出動に変えるしか手はあるまい」統幕長が一呼吸置いて応える。
「それで?」官房副長官が突っ込む。統幕長は新田の腕を掴み、
「賛否が割れる国論は後世に委ね今は超法規の治安出動に変えたい。どうです新田さん」
「先日の地下戦では即応隊に逃げる余裕さえ与えた。香山の統率力と戦意は侮り難い」
新田は苦渋に満ちた顔で腕組する。副長官は新田の決断を促す。
「私に権限はないが意見を言わせて貰う。今は賛成が幾分優勢だが賛成は登る丸い太陽、反対は沈む半円の太陽、このデザインの魔術にかかり国民は登る太陽を投函する。国民の圧倒的賛成の下では動きがとれない。膠着が更に長期化し世界のもの笑いになる」
「副長官は今を措いて決断の時期はないとお考えですね」新田が問うと副長官が頷く。
衆議院議長室、香山と中隊長3名が集り、小テーブルを囲んで座る。
「統幕が突入を許可した。中西隊長からの報告だ」香山が穏やかな表情で話す。
「後世への啓蒙、覚悟の結果だ」第2中隊長が息を整え話す。
「当初作戦通り決戦しよう。想定外の攻撃は有り得ない」第5中隊長が決意を示す。
第3中隊長が両手でパンとテーブルを叩き、
「私の隊が真っ先に戦う。それを人質達に見せて最後の説得を頼む」
「説得は了解した。明日正門前で中西隊が見せ場を作る。隊員達にも見せたい」
香山が立上る。中隊長達も立上り、4名は手を伸ばし重ね合せる。
国会議事堂・中央塔最上階展望室、浜室総理と溝口防衛大臣、香山が正門前を展望する。
正門前道路を横一列にテントが並ぶ。桜田門から正門へ押寄せるデモ隊を警視庁機動隊が立ち塞ぐ。デモ隊の拡声器が我鳴り立てる。
「自衛隊は張子の虎か、サッサと片付けろ!!」
デモ隊の後から押寄せる群衆も拡声器で応酬する。
「国民契約を実行させろ!!」群集がデモ隊の背後から襲いかかる。
デモ隊、群集、機動隊が三つ巴の乱闘になる。即応隊がテントから飛出し乱闘を眺める。乱闘を眺める総理、溝口、香山。香山が2人を等分に見詰め、
「ご覧の通りです。自衛隊の無能を世界や国民に曝すのはもう限界でしょう」
「即応隊が実力行使? 誰が命令するのだ」溝口が香山を振返り詰問する。
「皆さんにはもう当事者能力がない」香山は辛らつな言葉を吐く。
「私はまだ国民に付託された総理だ!!」総理は乱闘を見詰めたまま応じる。
「暫定憲法制定と国権の移譲を決議して頂く。期限は明朝の戦闘開始迄です」
香山は総理を見据えた。総理は振向き香山を睨み毅然と、
「暴徒の要求には屈しない」
「まだ総理にしがみ付くお積りか!?」香山は怒鳴り返す。
香山は悄然とする総理を冷笑して眺める。
正門前・夜のテント内、即応隊司令官と中隊長達が集う。司令官が中隊長達に命令する。
「明朝0500を期し突入する。彼らも精鋭中の精鋭だ。奇襲は通用せん。正攻法で戦う」
南原陸将は立会って見守り、言葉を追加する。
「同志撃ちは忍びないが、事ここに至っては諸君の無事を祈る。最後の説得を試みる」
南原は涙を浮べ、テントを立去る。南原は腕時計2215を見る。
衆議院議長応接室、2230時、大きい豪華な応接机がある。佐原元幹事長と香山が隣り合う柔らかいゆったりした椅子に座る。香山が机上の日本酒をコップに注ぎ、
「愈々明朝は決戦です。お別れの盃です」
「若い議員達を解放してくれんか?」
香山はコップを捧げ、一気に飲み干し、
「それはできません」
作品名:世界に挑む平成建国政権 第1章 作家名:大国主 みこと