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大国主 みこと
大国主 みこと
novelistID. 41026
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世界に挑む平成建国政権  第1章

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 佐原元幹事長も酒を一気に飲み干す。香山の顔を凝視し、
「別れの盃だけでワシを呼んだのではあるまい」
 分隊長が慌しく駆け込む。
「南原陸将が今すぐお話したいと・・・」
「今しばらくお待ち下さい」香山は佐原元幹事長に一礼して立去る。

 中央塔上階の大広間、香山は装甲車上に立ち照明灯が照らす南原を見る。
「ご用件をどうぞ」香山は拡声器のマイクを握り話す。
「これが最後だ。奥さんの話を聞く様に」南原の声を聞き取る。
 双方の拡声器の声が星空に響き渡る。南原と入替り雅代が車上に立つ。車の後方、横一列のテントが照明を一斉に灯す。
「貴方ごめんなさい。強制されたの」
「折角の機会だ、怖がらずに話しなさい」香山は雅代を凝視する。
「死なないで貴方。道連れを出さないで」雅代は必死の形相し声が震える。
「それはできない。最後の一兵まで戦う。国民は我々を理解し我々に続く者が必ず現れる。
隊員達のご家族やお前達に苦難の人生を歩ませるが許してくれ」
「その事なら心配しないで。隊員のご家族や息子達に、昔その父が日本の歴史を、世界の歴史を変えるために戦った。誇りと自信と持って生きるよう伝えて歩きます」
 雅代の声は震えず凛としていたが、喋り終ると車上に泣き崩れた。香山はマイクを離し、
「生き抜いてくれよ雅代」と呟き、
 アラモ砦・皆殺しの歌を拡声器から流す。香山は思い出に耽る。

 アパート・香山家・居間、1992年―バブル崩壊― 14歳の香山。学業のカバンを置き、襖を開ける香山が母と妹が並ぶ寝姿を見る。
「ただいま。夕刊配達終ったよ」
 起きない母と妹、香山は傍に駆寄る。母と妹の顔を撫で号泣する。枕元に遺書。
「もう直ぐ中学卒業だね。伸吾は独りで生きなさい。貧乏な母を許しておくれ。病弱な美紀は連れて行きます」溢れる涙で字が霞むが、母の声が読み聞かす。
 香山は畳を叩き叩き、
「母さんに働き口がなくても、僕が自衛隊に入り学業と収入を得ると云ったのに・・・」
 香山は唇を噛み締め、母と妹を抱締める。

 香山家・玄関、10日後の日曜の昼前、ノックの音を聞く香山が半間の出入口扉を開く。
母と別れ、小学3年生から会っていな父、花村伸也が半畳の玄関にズカズカと入る。
「今頃何で来た」懐かしさは微塵もなく、母を捨てた腹立たしさが込上げた。
「女とは別れた。お前達に済まなく思っていた」
「帰れ、帰れ帰れ」香山は父の身体を押し突出そうとする。父はその手を受止め、
「伸吾よく聞け、母さんは意地っ張りな女、いや芯の強い女と云うべきかな、父さんの援助を拒み続けた。人生は意地で生きるものでない。柔軟に生き抜くそれが大切だ」
「何が云いたい。母さんを非難しに来たのか? だったらサッサと帰れ」
「そうじゃない。母さんは母さんの生き方をしてしまった。美紀が可愛そうだ」
 香山は"美紀が可愛そうだ"と云う父の言葉に押す手を緩めた。
「どうだ伸吾、父さんと一緒に住まないか。好きな学校へも行ける」
 香山は"伸吾は独りで生きなさい"母の遺言を守り独り生きる覚悟だったが、寂しさは耐え難いものがあった。

 6年後、チャールズ川の畔、中西次郎と香山が木陰のベンチに並んで座る。
「無二の友、君にだけ打明ける。俺は今年の防衛大学入試を受ける」中西が唐突に云う。
「日本の防大か、なんで? 苦心して入学したエリートの道を捨てるのか」
 香山は同じ時期に入学し、親しく交わる友の言葉は寝耳に水、信じられなかった。
「世界の進む方向は間違っている。だが俺はもうそんな事を考えるのが面倒臭い」
「逃げ出すって事か」
「まぁ早く云っても遅く云っても、そう云う事だ」
 香山はサラリと受け流され戸惑った。ただ防大と云う言葉が記憶に突き刺さった。沈黙を保ち、川面を見詰める。練習するレガッターが通り過ぎる。香山は意外な決意を口走る。
「そうか、君の論理は一朝一夕には聞けまい。俺も付き合うよ」中西は驚き伸吾を見詰め、
「伸吾まで俺の真似する必要ない」
「いや俺の決心はもう変らない。次郎の論理をトコトン議論したい」
 こうして防大の期間も議論が続いた。配属されてからは広く仲間も増えシンパも増えた。
5、6年前からは議論では埒があかない。行動が必要との考えが大勢を占めた。
 香山は過去の出来事が次々と浮んだ。香山は現実に返った。
「同志を全員死なせてよいのか」
香山の心が突然、張り裂けるばかりに痛んだ。長年思想信条を共に議論し鍛えぬいた同志を一挙に失う。再起の種を残さねばならない。

 衆議院議場、衆参議員達が議場に溢れる隊員達が議場内を取囲む。香山が演壇に立つ。
「今23時15分である。議会が開けるこの状態で今晩寝起きして頂く。暫定憲法制定と国権の移譲を決議する残り時間は約6時間。戦闘が始まれば遅からず皆さんと共に死ぬ」
 香山は隊員が差出すマイクに向って話し、周辺に張り巡らせた導火線を指差す。
「私に話させてくれ」ひな壇の総理が香山に手を挙げて云う。
「総理どうぞ」香山の言葉で総理が演壇に降りる。
「私の内閣は暴徒の要求に屈するより死を選ぶ事に決めた」
「勝手に決めるな!!」議員達が一斉に叫ぶ。
「お前らだけが死ね!!」議場はヤジと怒号が渦巻く。
「五月蝿い!! 黙れ!!」香山は自動小銃を速記席に打ち込む。
「節を曲げずに死すは万世のため。皆さんに申し訳ないが政治家の代りは多数いる。この不名誉な事態の教訓を後輩に託す」総理は深々と頭を下げる。
「云いたい事はそれだけか!!」再び議員達の罵声が飛ぶ。
 前列左翼で揉み合う議員Aと議員B。
「議員立法で要求を受入れようじゃないか」議員Aが後を振り返り叫ぶ。
「バカ野郎!! 凛とした日本男児の心意気を後世に伝える」議員Bが叫ぶ。
「バカ野郎とは何だ」議員Aが議員Bに掴みかかる。
 香山は再び速記席に銃を連射する。

 衆議院議長応接室、1150時、香山は佐原元幹事長の隣に座り見張りの分隊長に、
「ここは2人でよい。持場へ戻れ」分隊長は敬礼して立去る。
「君達は赤穂47士にはなれないぞ。彼らは事を成し遂げた。君は破壊するだけだ」
 佐原元幹事長は香山を見詰めて諭した。
「もし西南の役で有能の士が死ななければ、維新後の日本は変っていたと思いますか?」
 佐原元幹事長は香山の突然な問いに間を置き、腕組みし、
「歴史にもしはないが、日本の歴史は変っていたかも知れん」
「明日は皆さんを盾に最後の一兵まで戦う積りです」
「若い議員や隊員も解放する気にはならんかね?」
「半数の隊員は何も知らずに従いました。今はもう一心同体で戦意旺盛です。衆参議場に各議員全員を拘束しています。先程の議員の混乱を考え、戦闘中は隊員を張付けます」
 更に香山は佐原元幹事長の膝を掴んで揺すり、
「指揮官全滅後は議場へ兵が逃込み、議場に仕掛けた爆薬を点火します。その兵を鎮め犠牲を抑える役をお願いしたい」
「大役だな、最後のご奉公だ。必ずやり遂げる、安心しろ」佐原元幹事長は大言を吐く。
「最後のご奉公なら他にも方法がある。暫定憲法制定と国権の移譲を説得して欲しい」
「何!? ワシにやれだと!!」
「そう、貴方に力が残っておればです。成功は中央広間4人目の銅像を約束します」