世界に挑む平成建国政権 第1章
統幕長は頷く。南原は敬礼して踵を返す。南原は1年や2年の付け焼刃の計画でないと感じているし、統幕長も同じ考えだと判った。
日本報道社(NWH)・役員室、経営幹部達が長方形机の周囲に座り、壁に投射するプロジェクタの映像を見る。報道局長が映像の出所を説明する。
「この映像は議事等占拠部隊が公開するウェブサイトの動画を映しています」
国会議事堂を背景に背広姿の香山が語る。
『我々は制定した暫定憲法を直ちに施行し、統治機構と諸制度を変革する。国会議員は廃止し、国民官を抽選する。行政府の長となる国務総理と法案の採決を国民の直接投票に委ねる。国民官は行政府が提出する法案、又は行政府了解の下に提出する法案の審議を行うが、当面は諸制度の変革に伴う要望苦情の受付を行い公開する。市区町村の首長は住民が選び、地方議員は廃止する。都道府県の組織は地方総督、知事の下に国策を遂行する』
香山が語るにつれ、背景が首相官邸や官庁ビルへと緩やかに変った。背景が切換る。爛漫と咲く桜花を映す。香山は間を置いて続ける。
『国の予算は民生予算と戦略予算に大別する。民生予算は教育、年金医療等の社会保障、消費者保護、防災消防等などに充当し、市区町村に権限と予算を移譲する。戦略予算は外交、防衛と治安、広域行政、戦略政策に充当し、最低3年の計画を開示する』
背景が春夏秋冬の美しい風景へ緩やかに変った。背景が切換る。7つに色分けした地方名を記す日本地図が映る。四国4県は白色、四国地方単独、関西又は中国地方に編入。その選択は県民に委ねる、と文字表示していた。
『さて、道路河川交通を担う広域行政と、食料とエネルギーの自給を目指す戦略政策は、地方総督と都道府県知事がその立案に参画し、決定した国策を実行する』
背景が切換る。額に汗して働く町工場の人々が次々と映り始める。
『我々は内需拡大による所得倍増の戦略政策を行う。児童学生、健康等の支障者を除き、75歳未満の老若男女に就労の場を設け就労を促す。倍増と自給の戦略政策、震災復興は行政府が直轄し、国民の英知を結集して総督、知事、自治体の長と共に実行する』
背景が切換る。田を耕す人々、漁をする人々が次々と映り始める。
『問題は財源である。国民は所得に応じて納税の義務を負い、日本国籍を有する者は国外に居住するもその義務を一切逃れ得ない。教育、医療、研究の法人団体を除く全ての法人団体は収益に応じて納税の義務を負う。宗教団体、公益法人と云えども例外はない。年金等など国民から預かるお金以外の特別会計は廃止する。消費税は5%を限度とする。
国民には魅力ある国債の購入を促し、綿密な管理を前提に日銀券の増刷も辞さない』
背景が切換る。小、中、高、大学の授業風景が次々と映り始める。
『次は人材である。総督、知事及び政務に係る人材を公募し、政務官として登用する。政策立案とその実行に蛮勇を揮う国民の応募を望む。我々は個人の才能を認めるが、専門家と称する集団の才能は経験に照らして認め難い。よって政策決定過程や公金使用の分野にアンタッチャブルなオンブズマンを受入れる。また外交と防衛の機密情報、個人情報を除き、全ての行政情報を公開する』
背景が切換る。香山は堂々と語り続く。
『司法については・・・』
会長が手を左右に振り、
「もうよい、止めろ。施政演説の積りか。これを報道すると暴徒に加担するも同じだ」
会長の一声で映像が消える。ニュースデスクがノックもせず飛込んで来て、
「失礼します。ツイッターがパンク、炎上中です。外電は日本情報で溢れています」
「会長、お言葉を返すようですが、デスクの云う通り我が社が報道しなくても、世界には劇的に広まります。報道を業とする社の責任が果せません」報道担当役員が直訴する。
「社の責任はワシだ。お前でない。他社がどうあれ暴徒に加担する報道はならん」
ワンマン会長に逆らう術はなかった。
衆議院議場・傍聴席、香山が議場の議員達を見下し携帯電話する。
「残念だが最早穏便な収拾はできない」南原が陸自の意思を伝える。
「即応隊が来るより依頼品が先でしょう」
「本隊が届ける。間違いない」
「狙撃や敷地内への侵入は議員を射殺する」
「判っておる!! 本隊は災害の訓練出動だゾ」南原は自重を促す。香山は電話を切る。
香山家・居間、香山の妻・雅代が夜の臨時ニュースに見入る。テレビに香山の顔が大写しされ、テロップが流れる。
"本日午後、陸上自衛隊約400名が国会議事堂に侵入、現在占拠中"
「おばちゃんの家に直ぐ行くわよ」雅代が大粒の涙を流し、息子達を抱締める。
雅代はテレビを消した。息子達にテレビを見させたくなかった。
「父ちゃんも行くの? ボク幼稚園休むの?」
生命の危険は常日頃から覚悟して生活していた雅代だが、この様な事態は全く予想していなかった。雅代は息子達の安全を守る事しか念頭に思い浮ばなかった。
日本中央報道(NCH)テレビスタディオ、上原ニュースキャスターが中央に座る。
左右向き合って軍事評論家、大学教授と政治部記者、政治評論家が座り、上原の頭上、正面の大画面を食い入る様に眺める。大画面には議事堂が映り、次に多数の人々が映る。
『アッ今、女性議員ほか多数が南門に向っています。解放される様です』
中継記者の声が流れる。ビルの屋上に据え付けたらしいカメラが人々を大写しにする。画面に映る人々は落着き敷地内南門から道路へと歩み出る。画面が切換り、解放された人のインタビューになる。インタビュアーが中年の男性にマイクを向ける。
『どういう状況でしたか?』
『私は衆議院の傍聴席へ入る途中の廊下で突然、衛視に拘束されました。衛視は占拠隊員の変装と直ぐ気付きました。何しろ外部との通信を真っ先に遮断されましたから』
『今も議事堂内と連絡は一切とれまんよね』
『議場に携帯を持込めませんが、私は幸い携帯を預ける前でしたから連絡を試みました。電波妨害らしく駄目でした。私含め全員の携帯は直ぐ没収されました』
インタビューは続くが、上原は参集者に発言を促す。
「さて解放は実現しましたが、今後の展開について皆さんのご意見をお伺いします」
参集者は画面から目を離し向き合う。
「そうですね。男性衆参議員数600名強、国会職員の解放数は未だ判りませんが残りは約500名とすれば大雑把に千名超が人質です。高度に訓練された約400名が占拠部隊とあっては実力行使も不可能でしょう。長期化しますよ」軍事評論家がまず発言する。
「マァこのところ3ヶ月や6ヶ月、国政がマヒし停滞する例は見慣れておりますから」
教授が皮肉を飛ばすが若い政治部記者には通じないらしい。
「アジア諸国に強い衝撃を与えていますし、長引けば日本の信用が地に落ちますよ」
「ウェブサイトには御託を並べるが法律を好き勝手に決める独裁そのもの。抽選した一千万有権者は投票の棄権に対し、50歳未満は3日間の防衛訓練入隊、50歳以上は3日間のボランティア活動のペナルティを課す。これは戦時中の勤労奉仕や老若男女の就労は、国民総動員を思い起し、衣の下に鎧がチラつく」
政治評論家が政治的な危険性を指摘した。
作品名:世界に挑む平成建国政権 第1章 作家名:大国主 みこと