世界に挑む平成建国政権 第1章
「地方総督はいわゆる道州制的な長であり、知事を介して広域の国策を遂行する。各省庁のぶら下り出先組織は廃止し、都道府県は完全な国の出先機関とする。全ての民生は市区町村に権限と財源を移譲する。毎年の市区町村予算案は住民代表の過半数の賛成を得て成立する。条例は住民投票で採決する」
溝口は終戦後に営々と築いた日本国を根底から破壊する恐怖に身震いした。
「溝口大臣、この革命が定着する数年は国内外の雑音を全て排除します。ただ同胞相争う流血だけは避けたいと願っています。ご協力願えませんか?」
「寝言をほざくなッ、武器を捨てここから出て行け!!」溝口は一言の下に拒否した。
香山は時間が味方すると考え笑みを浮べた。
国会議事堂・南門、陸将旗を翻す高機動車が停まる。南原陸将が車を降り南門へ向う。衛視が直立不動の姿勢で南原陸将に敬礼する。南原は笑顔で敬礼を返し、
「やはり君達か。取次ぎ給え」
キビキビした動作と規律は陸自精鋭部隊と一目瞭然である。衛視は予めの命令らしく、
「どうぞ、ご案内します」南原は反乱部隊が待ち受けていたと知り緊張する。
議事堂・中央広間、四隅に伊藤博文、板垣退助、大隈重信の銅像と空の台座がある。
香山と南原は広間の真ん中で赤絨毯上に立ち談判する。隊員達が離れて取囲み見詰める。
「穏便な決着のため溝口大臣と会いたい」香山は設置した爆薬や導火線を指差し、
「閣下、無理な突入は瓦礫になります」
「関係者しか知らない今なら収拾し易い。防衛大臣とジックリ3人で話し合いたい」
南原はなおも説得を試みる。香山は深々とお辞儀した後、南原を見詰め、
「寝袋と弁当2000個、食材と医薬品の差し入れ、外科医10名と看護師の派遣をお願いします。代りに女性と傍聴人の全員、大多数の国会職員を解放します」
「香山3佐!! あくまでも君は・・・」
「幕僚副長、南原陸将のお帰り」隊員達が南原を取囲み誘導する。
議事堂・正面玄関、石段の最上段に立つ香山が正面広場に集まる報道陣を見渡す。石段両端に隊員が立つ・カメラが一斉に香山を狙う。香山は拡声器のマイクを握り、
「閣僚と衆参両議員は我々の管理下にある」
報道陣から"ウォー"と叫ぶ鯨波が沸上る。香山は両手を上下する。静粛になると、
「我々は暫定憲法の下に約8年間の革命政府を樹立する。jpnドットcaのウェブサイトに公開した暫定憲法と政策は国民との契約である。我々は国民の支持を求めている」
男が石段を駆け登る。隊員が男を取押え押し返す。
「国会記者クラブの者だ、チョッと待ってくれ。報道陣の諸君、内乱罪に相当する集団のPR報道をする積りか? 中継は中止だ、帰ろう」男が大声で叫ぶ。
電話する者、スマホでサイトを閲覧する者、ざわめきが前列から後列に拡がる。
「我々は報道の自由を尊重する。帰りたい報道者は直ちに南門から退場願いたい」
香山はマイクに向い大声を張上げる。報道陣の人々がゾロゾロと動き出す。隊員2名が報道陣を南門へ誘導する。男は大声を張上げる。
「帰れ!! 帰れ!!」男の扇動にも関らず報道陣の3割程が退出し百数十人が残った。
報道人の性が世紀の大ニュースを無視できないのだ。香山は広場の落着きを見計らい、「我々は真に国民主権の統治機構改革が目的である。我々の政策はウェブサイトで語り尽している。我々は流血を望まない。国民の支持なくば武器を捨てる」
香山は一呼吸の間を置いて続ける。
「騙され続けた国民の皆さん、もう一度、我々との契約を信じ賛否表示を願いたい。方法は葉書50円をご負担頂き、サイトに例示する通り賛成と記入し、葉書の上部に昇る丸い太陽を描き、又は反対と記入し、葉書の下部に半円の沈む太陽を描き、名乗り出ると信じる賛否集計所宛に、あなたの住所氏名を偽らず記して一人一枚を郵送願いたい」
香山は落着いた声で国民に語りかけた。男が手を上げる。香山が指名する。
「NWHの轟です。暫定憲法9条についてお尋ねします。追加した3項"国は国の独立と国際平和並びに国民の生命財産を守るため、あらゆる手段を保持する。その手段は法律でこれを定める"とありますが、右傾化を最も懸念します」
「国民の生命財産を守る、これは国の義務である。国の義務を明記したに過ぎない。我々は9条1項2項を誓って遵守する。我々が目指す統治機構は国会と地方の議員を廃止し、国民が直接に立法権を行使できる。従って8年経過後には国民が憲法をも制定できる」
香山は次の挙手する男を指差す。
「大日ウエブの長谷川です。決起のPR報道は控えます。ただ皆さんの管理下にある議員や職員はどの様な状況ですか? 今後はどうなりますか?」
「議員は各院内、職員は数箇所に拘束している。食料や寝袋が確保でき次第、女性と傍聴人の全員、職員の過半数を解放する。その後は国民の判定が下るまで拘束を継続する」
防衛省統合幕僚幹部・会議室、制服組幹部達と背広組幹部達が大きなテーブルを囲んで座り、壁の表示器に映る議事堂の会見録画を見入る。防衛省・官房長が不快感を露に、
「情報本部長、奴らのウェブサイトを遮断できんのかね?」
「官房長、残念ながら我が国は中国と違い、国外のウェブサイトを遮断する方策はない」
「それならアクセスを集中させてサイトを動作不能にできるだろ?」
「官房長の意図はDOS攻撃でしょうが、正体不明の団体が多数のミラーサイトを国外に開設し、時すでに遅しです。彼らもDOS攻撃を想定した対策でしょう」
「早々と革命政府の樹立を宣言し政策まで発表する。誠に不快極まる」
国家防衛の最高幹部が集い何等の方策も打ち出し得ない時は国内外に無能を曝け出す。それだけは避けたいと誰もが思っていたが、法の遵守も疎かにできない問題であった。
新田陸幕長が苦渋に満ちた表情で、
「即応部隊に災害救助出動を命じる」
幹部達が"エェッ"と驚愕の声を発し互いに顔を見合せる。南原が新田を見詰め、
「テロ対応作戦の実施ですか? それは首相の出動命令が・・・」
「訓練の延長だ。超法規の出動ではない」
苦虫を噛み潰す統合幕僚長が香山3佐の略歴を無言で眺める。
『香山伸吾・3等陸佐36歳、ハーバード大学・経済学専攻中退、防衛大学第48期卒、日米防衛訓練指揮所・連絡調整官を経験、イラク派遣、家族・妻と息子2名、趣味・読書とラテン系音楽、性格・沈着冷静』とある。
壁掛時計1710、幹部達が慌しく立去る。立去りかける南原を統幕長が呼止める。
「南原副長、警視庁からの接触はあったか?」
「関与者の人員など情報を求めていますが、調査中と返事し開示していません」
「そうか。ところでハーバードの在学期間は何年か?」
「1年8ヶ月です」南原は即答した。
「防大には秘めた目的のため入学したのではないか?」
「調査では大それた事態を起す男でないとの評価でした。脳ある鷹は爪を隠したかも」
「そうか、さもあらん。ただ日本の法律は最高国家権力の機能停止に対処する術がない。核攻撃でも災害でも有り得る事だが、いずれは超法規の行動も視野に入っているか?」
「陸幕としては、そんな事態にならないよう最善を尽くします」
作品名:世界に挑む平成建国政権 第1章 作家名:大国主 みこと