世界に挑む平成建国政権 第1章
「成功する。国民の目には皆さんが狂っている。我々は民主主義の破壊者ではない。真の民主主義建設者である。暫定憲法はその事を明記している」
「君らど素人の書き物は読む気もしない」数人の閣僚が印刷物を塵の様に破り捨てる。
「無益な議論に慣れた職業政治家の皆さんと議論はしない。我々には実行あるのみだ」
「私の閣僚だけは残る。議員達は解放しなさい」浜室総理が解放を要求する。
「国民の支持が得られた時に解放する。それまでは割当てる部屋で寝泊りして頂く」
「支持が得られない時は?」
「私ほか首謀者は自決する」香山は事も無げに云う。
連隊指揮所のテント内、連隊長と副官、通信隊員達が机上の大型表示器を眺める。
表示器には地図、各中隊の移動経路とも現在位置、目的地到着予定時刻を表示している。中西次郎3佐と銃を構える従兵6名がテント内に乱入する。
「銃を渡せ!!」中西の命令に従兵達が連隊長ほか指揮所隊員の銃を取上げる。
連隊長は横に並んで立つ中西を振向き、
「何の真似だ、君の第4中隊は今・・・」
「ハイテク機器は位置の偽装に最適だ」
「何!! この現在位置はGPS搭載車だけの動きか?」連隊長は渋面で中西を見る。
「そのようだ」中西はニタッと笑って応える。
「連隊長、赤井である。各中隊は作戦通りに行動しているか?」
突然、机上の無線機が通信を傍受する。中西は連隊長に銃を着きつけ、
「連隊長、作戦通り続行中と答えてくれ。我々はここで血を見たくない」
中西は机上に置く無線機のマイクを取り連隊長に手渡す。
高機動車内、迷彩服を着た隊員が無線で報告する。
「こちら偵察隊、議事堂の正門と南門に各10名の衛視。北門及び衆参通用口は閉鎖中。衆議院と衆議院分館の間に白い布状の遮蔽物あり。各箇所の写真を電送する」
高機動車は議事堂北門が見える位置を通過し遠ざかる。
陸上幕僚監部・陸上幕僚長室、三ツ星の南原が新田陸幕長の執務机の前に立つ。新田が立上り、手に掴む写真を南原に手渡し、
「これはNWH記者の空撮だ。この日比谷通りの車列は司令部の計画外である」
南原は数枚の写真を次々と眺めて、
「予算案の採決がずれ込み、衆参議員が一斉に集い防災訓練が重なる。偶然だろうか?」
「その気なら今日は千載一遇の機会だ。その司令部が派遣した偵察隊の写真だが・・・」
「これですね、衆議院と分館の間の遮蔽物とは。裏手からは別館で遮られるし、ここを遮蔽すると車を停めるには最適でしょう。私が確認に行きます」
新田は大きく頷き、
「司令部任せにはできない重大事態だ。確認が先決である。南原君頼む」
南原は腕時計1528を見る。
衆議院第一委員室、人は異常事態に遭遇して性格を顕著に示す。拘束して約1時間半をぼんやりと無為に過す者、大胆に居眠りする者、神経質にオロオロする者、溝口防衛大臣の様に対処方法を熱心に模索するであろう思索に耽る者、何人かは仕方なく憲法を読む者であった。香山は閣僚から、
「いつまで拘束するのだ?」と尋ねられても「無駄口は止めろ」と応え、ただジッと座り続けた。閣僚間の会話は取囲む従兵の銃剣をもって禁じた。
香山は頻繁にやって来る隊員が耳元で囁く報告に頷く。一等陸曹がやって来た。
「携帯電話等通信機の回収を終了。電波妨害装置を停止。以上」香山の耳元で囁く。
「ご苦労」香山は作戦の進捗に満足らしく笑顔で応えて頷く。
外部との連絡遮断は制圧後の第一行動であった。トラブルもなく達成できた様である。一等陸曹が退出すると、浜室総理が沈黙を破り、
「この憲法草案の第5章行政府では、国務総理が国民の直接選挙で選ばれ、任期4年、3選禁止は解るが、第4章国会では国会議員の条文がない。どう云う事だ?」
総理の質問に香山は待ち望んだ如く、
「立法権を司る国会議員は存在しない。国会には100名の抽選した国民官が存在する。国民官はその多数決で提案する法案、行政府が提案する重要法案を審議し、抽選された約一千万人有権者の賛成過半数を得て法案が成立する。立法権は国民の直接所有とする」
「一体全体100名の国民官をどの様に選ぶのか?」文科大臣が問う。
「政党活動は禁止しない。約千七百の市区町村の首長が得た総得票数を分母とし、各政党の公認の下で当選した首長の合計得票数を分子とした100分率パーセントが、国民官の政党割当数となる。各政党は割当数の3倍を推薦候補と定め、これを抽選で決定する」
総務大臣がギョロ目を剥き、選挙管理の担当大臣として突っ込む。
「無所属で当選した首長の合計得票数が勘定に入らんじゃないか?」
「無所属の国民官割当数は、国家公務員試験合格者から募集して抽選する。国民官に門戸を開き、真に政策が審議できる人材を育成する」
香山は立板に水、すらすらと答える。
「立法権者とは何かね?」総務大臣が問う。
「国民官は予算案、法案を審議するだけ。立法権者は審議案件を採決する有権者である」
「一千万人立法権者と云ゃあ、全国有権者約1億の10%だがどう選ぶのだ?」
「そりゃ簡単、住基ネット活用し、約1億を分母として市区町村毎の年代別男女別有権者数を分子とする比率に一千万を掛算して全国平等に無作為で抽選する。電子投票制度も確立する。有権者の頻繁な投票は投票所へ出向くことなくできる」
溝口防衛大臣が顔を紅潮させて怒鳴る。
「バカな質問してコヤツ等を増長させるな。閣僚なら事態の収拾に知恵を絞れ」
「溝口君の怒りはもっともだが、退屈凌ぎに若者の意見も聞いてやろうじゃないか」
昼行灯と陰口を叩かれる農林水大臣の意外な発言に閣僚が爆笑する。
「立法権者が予算案や法案を否決する毎に全有権者投票をするのかね? 常に国民投票の可能性があるではないか」
浜室総理は驚きの表情で尋ねる。
「そうです。予算案を丁寧に説明又は修正して賛成を得る事が基本ですが、この暫定憲法は直接民主主義の統治を目指しているから当然です」
「そんなバ・・・、国民に負担をかける法律は一切成立しない。財政が破綻するぞ」
財務大臣が恐らくバカなと云いかけた言葉を飲み込み反論した。
「データを示し懇切丁寧に説明するなら国民は必ず納得する。我々は国民を信じるし、丁寧且つ真剣に審議する国民官と行政府を育成する」
「書生論はいい加減にし給え。11章の補則をチラッと見たが、君らは8年間に亘り随所で拒否権を行使し、好き勝手な法律を創り、独裁を欲しいままにするのだな」
溝口防衛大臣が怒りの口を尖らせた。
「当然でしょう、革命ですから」香山は事も無げにケロッと云ってのけ、
「但し国民官は抽選する。市区町村は憲法と法律に則り選挙を伴う民主的な行政を行う」
「バカ野郎!! 国会議員や地方議員を廃止してどこが民主的だ!! 国務総理が地方総督を任命し、知事は地方総督が任命するだと?! こんな事で地方行政が成り立つか」
最初に暫定憲法の印刷物を投げつけたが、11章補則や地方自治の要点まで一読した様である。グウタラ大臣の辞職や解任が続き、何人目かで就任したカミソリの異名を持つ防衛大臣である。香山はカミソリの片鱗に接する思いであった。
作品名:世界に挑む平成建国政権 第1章 作家名:大国主 みこと