私の隣のあなた
最近、早く帰ってくる日も遅くなった日もあなたはパソコンの画面を見ている。
仕事が忙しいのだろうか?キーボードの音がしている。邪魔はしたくない。してはいけないものと私は別室で過ごす。
本を読んだり、疲れてつい居眠りしたり私も気ままに過ごす。
だけど、私はあなたが仕事じゃない時間を過ごしていたことを知った。
ある日、部屋でパソコンをしていたあなたは、腹の調子でも悪かったのかトイレに駆け込んで行った。どうしたのかと私は、部屋を覗いたとき、開いたままの画面が目に入った。字が並んでいる。じっくり見なくても仕事の内容ではないことがわかった。つい入り込んで見かけたとき、トイレの流れる音がしたので私は部屋を出た。踏み込んではいけない領域を犯そうとしたことを後悔した。
「ただいま」
「おかえりなさい」
あなたは、今夜もパソコンに向かっている。
誰と語らっているの?
トントン。あなたの部屋をノックする。
「いいよ」
ドアを開け、私が顔を見せると椅子をこちらに向け、両手を広げてみせた。引き寄せられるようにその腕の中に身体を寄せる。
「どうしたの?」
「お邪魔していい?」
「うん、どうぞ」
「私もパソコンしたいと思うの。会社では入力してるけど、自分の専用のを持とうかなって」
「いいんじゃない。むしろ今まで持っていなかったことのほうが不思議だったよ」
以前の家には夫と共有して使っていたパソコンがあった。
「どれくらいのを買ったらいい?相談にのってくれる?あ、いくらくらいかかるかな」
「じゃあ、ネットで買ってあげようか。予算は?」
「いいのが、あったら教えて。予算はそれから考える」
「今から見る?探そうか」
私を膝に抱えたままでモニタに向き直す。立ち上げ画面の抽象的な画像になっている。
手馴れた操作でサイトを探す。カタカタ軽快にキーをタッチし、マウスがカチカチクリックされる。
その指が私は好きだ。美しくも感じうっとり見つめる。
「これ、どう?」
私は、多少操作できるくらいで詳しくはわからない。それにあなたが勧めるものならば私の程度も理解してのこと、たぶん大丈夫だろうと思う。
振り返りあなたを見る。あなたの瞳に私を探す。
「何見てるの」
口先で画面を見るように促すあなたに少し膨れっ面のような笑みを向け、画面に向き直す。
「じゃあこれでいいね。カートにポチッ。はい、完了」
「ありがとう。楽しみ。あ、繋げ代は?」
「繋げ代!?あはは、高いよ。じゃあ今日ね」
私は部屋を出る。