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私の隣のあなた

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 「ただいま」
「おかえりなさい」
「いい匂いがしてるね。風呂に入ったら食べるよ」
そういってあなたは、今日の汗と仕事の疲れを洗い流しに行った。
 今夜は、一緒に飲もうかな。飲めない私もあなたのコップからひとくち頂こうかと待っている。
 ほかほかとしてはいるものの、さっぱりしたあなたの顔を見ると自然に笑みが浮かぶ。つい抱きつきたくなる。思いを振り切るように背中を向けテーブルに料理を並べる。僅かな熱気が近づいた。皿を持ったままの私を背中から抱きしめた。
「暑いよ」
「ん」
あなたの手が皿の中の炒め物を摘んで自分の口へと運んだ。
「美味しいよ。楽しみだ」
汚れた指先を私の唇につけた。私もそれを舐めた。
「うん、美味しいでしょ。食べよ」
食事の用意をすることは、義務ではない。好意でいいよと言ってくれた。だから私は作る……作りたいときだけ?お袋の味でも妻の味でもなくなくていい。ふたりが楽しいひとときを過ごせるスパイスで。添えのパセリでもいい。
 コップからひと口貰ったビールの味はやっぱり苦かった。あなたは「ほらね」と笑って美味しそうに飲んでいた。
作品名:私の隣のあなた 作家名:甜茶