私の隣のあなた
あなたが婚姻届の用紙を私の部屋のテーブルの上に置いて帰って行った翌日から二日、あなたからの連絡がなかった。
(どういうつもりなのかしら)
そんな気持ちと過ごした二日間だった。
三日目の夜、あなたは菓子の包みを持ってやってきた。
「ただいま。出張のお土産。一緒に食べよ」
その夜、初めてあなたは私の部屋に泊まっていった。今までどんなに遅くなっても、日付けを跨いでもあなたは必ず自分の部屋に帰って行ったのに……私が泣いたせいだろうか。寂しかったのか、嬉しかったのかよくわからない感情が込み上げてしまった。
翌日は、ふたりとも仕事は休み。その翌日も祝日で休みだった。
昼間は、いつものようなデートをした。あなたが仕事道具も兼ねたパソコンのショップへ着いていく時が特に好きだった。
専門的なことは私にはわからないが、それらを探し、選んでいるあなたの真剣さが魅力的だった。
(私にはそんな見つめ方しないのに……)と訳のわからない嫉妬もした。
夕食を軽く済ませ、あなたの部屋に行った。
私は、バッグに入れてきた婚姻届をあなたの前に出した。あなたは首を傾げた。
「書いてないね。やっぱり嫌?」
「違うの。でも書けなかった。じゃあ、あなたから書いて」
そう、その用紙にはあなたの記入もなかった。
「えっと、珈琲淹れようか」
あなたがふたつのカップを持って戻ってくるまでふたりの間には沈黙の時が流れてた。
「はい」
「あ、ありがとう」
あなたが、ぼそりぼそりと語り始めたことは、私の戸惑いと重なっていた。
一緒に居たい思いと結婚という形への虚無感……それは、作られた安心感で確かな充実感ではなかったこと。
そして、ふたりが望んだ形は、お互いの家族も認め、叶った。