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栗の木の花の下で・・ワンナイトセックス

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 身体を起動させるまでは辛いが、心臓や筋力が回転し出すと、森林エネルギーを吸い込むからだろう、男は機関車のように働き出した。激しい呼吸、吹き出る汗、律動する筋肉、作業する男は、疲れを知らないサイボーグであった。
 全身を使った単調な労働は、急坂に挑むマラソン選手の境地、いわゆるランニングハイに誘う。男はハイテンションで、「これでもか!これでもか!」とツルハシを振り下ろす。グサッと抉れる赤土、ムッと仄めく土の匂い、全力で働く男は、女に気付かなかった。
 道端でしばらく、女は男の様子を見ていた。と言うか、見惚れてしまった。汗に光る背中、荒々しい息づかい、逞しい筋肉、バネのある肉体、男は後ろ姿で表情が見えない。
 女が去ろうとしたとき、視線を感じたのか、男がクルッと振り向いた。女はアッと驚いた。少年のように甘いマスクである。思わず尋ねた。
「凄い汗ですね・・疲れません?」
 男はツルハシを休めた。顔からも肩からも汗が滴る(したたる)。ハーハー息を弾ませている。
「・・いやあ~森の仕事は疲れませんよ。好きですから・・」
 腰のタオルで汗を拭った。スポーツを終えた爽やかさである。女も弾ん(はずん)だ気分になった。
「何を造るんですか?」
 ヤカンを持つと、今度は直接口で受けた。ゴクッ、ゴクッ、豪快な飲みっぷりである。「・・遊歩道を造るんだ。下の池まで整備して、柵を巡らすんだ。」
 女はバギーの子供を見て相づちを打った。
「この子も喜ぶわ。歩き出したもの・・」
 一息つくと、男は例の大木、白い房花を一杯吊す木を見上げた。
 大きく手を広げた枝々に、無数の白い房花が葡萄のように垂れている。初夏の光りに透かされて、透明だったり、陰っていたり、黄色がかったり、青みがかったり、柔らかな白色のトーンが絶妙である。
 突然、女が真顔になった。例の青臭い匂いが降りてきたのだ。
「・・匂いません?この強烈な匂い・・何?」
 女は鼻をピクピクさせている。男がニヤリと微笑んだ。
「生臭いこの匂い・・時々家まで匂うのよ。頭がボーして力が抜けるの・・何かしら?」
 男は焦らす(じらす)ように言った。
「この匂い・・ご存じないですか。この木、栗の花の匂いですよ・・ほれ」
 栗の大木から花房をもぎ取ると、女の顔に近づけた。鼻孔を広げて嗅ぐ女。ニヤニヤ見つめる男。思わせぶりな口調で呟いた。
「ご主人はご存じですよ。ほれ、この匂い・・」
 揉んだ花房を女の鼻先スレスレに近づけた。女は目を閉じて匂いを吸い込む。プーンと鼻を射す青臭い匂い、生々しい強烈な匂い、覚えがある。男の声が低くなった。
「ほれ、この匂い・・憶えてませんか。・・男の匂いですよ。」
「・・ご主人のあれの匂い」
 女は??と思った。男の匂い?主人のあれ?
 もしかして・・「精液?!」
 そう直感したのと、顔が真っ赤になったのは同時であった。
「キャーッ!!」
 真っ赤になった女は、バギーを押して飛んで帰った。男はツルハシを叩いて笑った。

 数日して現場に入ると、梅雨空の合間の好天に、女が洗濯物を干していた。刈り込まれた芝生、カゴ一杯の洗濯物、洗った衣類を一枚ずつ干している。その馴れた手つき、屈伸する足腰、石鹸の匂いが届いて来そうである。伸びやかな姿態は、どう見ても子供を産んだ女に見えない。男に気付いたのか、女は大きく手を振った。
「お早うございま~す!」
 にこやかな笑顔、しなやかな姿態。サーッと風が吹いて、女のスカートを捲り上げた。
「キャ~」スカートを押さえる女、男は思わず叫んだ。
「お早う~モンロー!」
 風に膨らむスカートを押さえる、マリリン・モンローのプロマイドそっくりであった。



 昼時になって、男は栗の木の下で弁当を広げた。
 親方の女将さんが作ってくれる大盛り弁当である。思いっきり汗をかいて、ビールをあおって、弁当を頬ばるのは最高である。時折、若葉の風が吹き抜けて、まるでピクニック気分である。
 栗の木が無数の白い花房をブラブラさせている。遠目には雪洞(ぼんぼり)のように、綿菓子のように見えるが、良く見ると、房花は白い稲穂のバナナのようである。それが受粉するために、生臭い猛烈な匂いを放つ。
 バナナのような花房、それの放つ精液の匂い・・これほど露骨な、男の物を連想させる花はないであろう。先日、女が真っ赤になって逃げ出したことを思い出した。
 そのせいだろうか、栗の木の下でうたた寝しているとき、男は変な夢を見たのである。

 ここはどこだろう?
 目の前に、人工芝のような芝生が広がっている。空は塗り絵のようにベッタリ青い。こんもり繁った木があり、洋館がポツンとある。どこか芝居の書き割りめいて、現実感が乏しい。シーツが干してあり、時折風にそよいでいる。それだけが現実を感じさせる。
「フフッ、フフッ」
 シーツの所で何か音がする。風の音だろうか、シーツの音だろうか、それとも人の声だろうか。男が近付いて行くと、突然、シーツの陰から女が顔を出した。目も鼻も無く、唇が真っ赤である。
「フフッ、フフッ」
 微笑みながら手招きする。赤い唇に男の物が堅くなる。男は何もまとっていない。生まれたままの状態である。女は妖しげに微笑む。
「お出で、遊ぼ・・」
 真っ赤な唇を差し出している。男はその気になって近付く。
「遊ぼ、いらっしゃい・・」
 シーツ越しに口づけしようとすると、女はサッと身をかわした。シーツを抱いて、転がりそうになる男。フーッと吐息を吹きかけて逃げる女。女も生まれたままの姿だ。プリプリ揺れるお尻が艶めかしい。
「ウオーッ!」
 男は獣の雄叫びで追いかける。女はシーツを次々潜って逃げる。捉まりそうになると、嬌声を上げながら、シーツを投げたり、被せた(かぶせた)りする。
 男の物は猛り狂っている。顔が真っ赤で、目が血走っている。女は時々振り向いて、赤い唇で挑発する。
「お出で、お出で」
 突然、女は逃げるのを止め、シーツの陰にうずくまった。今度こそはと息を殺して近づく男。シーツの陰で乱れた呼吸が聞こえる。
「ワオー!」
 飛びかかる男、咄嗟に身をかわした女。男はもんどり打って転がった。その間抜けた顔、男の物は猛ったままである。指さしてキャキャと喜ぶ女。
 再び逃げようとした刹那、男はグイッと女を捉えた。男の手が足首を掴んで離さない。女は罠にかかった鹿である。もがく度に罠が食い込む。鍛えた男の力にかなわない。女はズルズルと引き戻され、腰を押さえられた。
 アーッと叫ぶ女。男は背中にかぶさり、うなじに食らいつく。鹿を仕留めたライオンさながらである。女の抵抗は徐々に喜悦に変わっていく。乳白色の身体がピンクに上気していく。背後から男の物を押し込もうとしたとき、突然、大きな音が響いた。
「ブーブー!」

 一瞬、何が起こったのか、分からなかった。
 辺りを見回すと、親方がトラックを止めて、クラックションを鳴らしている。そうだ、今日は午後から親方が来るのだ。
「クッソ!良いところだったのに・・」
 我に返って起き上がったが、股間は夢のまま猛っている。