緋色の追憶≪序章≫
「なんてきれいな……」
近づくにつれて、少年の容貌がはっきりと見えてきた。その美しい横顔にフォンテーネは息をのんだ。ふいに少年がフォンテーネの方を見た。
「あ」
声を上げたのは同時だった。けれど、少年はすぐに跪いてフォンテーネに挨拶した。
「気がつかずに申し訳ございませんでした。姫様」
「あ、あの。ご、ごめんなさい。脅かしちゃって」
「いえ」
少年は下を向いたまま小さくつぶやいた。
「あの、お願いがあるんだけど」
フォンテーネは思い切って、少年に言った。
「その馬車に乗せて貰えないかしら」
思いもよらない言葉に少年は驚いて顔を上げると、緑色の澄んだ瞳がフォンテーネをとらえた。少年はフォンテーネの美しさに、フォンテーネは少年の瞳に釘付けになり、二人はしばらく見つめ合った。
「い、いえ。とんでもございません。こんな馬車に姫様を乗せるなど……」
我に返った少年は平身低頭して辞退するのだった。
「でも、わたし。急いで帰らないと」
フォンテーネは懇願した。
「城までとは言わないわ。森の入り口まで。ね。お願い」