緋色の追憶≪序章≫
結局、使用人の身では姫君の申し出を断り切れず、少年はフォンテーネを馬車に乗せて森の入り口まで向かった。
フォンテーネは同じくらいの年頃の少年とは久しぶりに話をするのが嬉しくて、あれこれと声をかけた。
「わたしはフォンテーネ。あなた、名前は?」
「森番の息子なんでしょ?」
「兄弟はいるの?」
「兄弟がたくさんいたら、楽しいでしょうね」
少年は馬に鞭を当てながら、黙って馬車を進めるばかりだった。フォンテーネは少年が気を悪くしたのかと思った。
「ごめんなさい。うるさくして。同じ年頃の人と会ったのは久しぶりだったから……」
すると、少年は首を横に振り、
「いいえ……。ぼ、ぼくには名前、ないんです」
と、小さな声で言った。フォンテーネは唖然とした。
「ど、どうして?」
少年はぽつりぽつりと身の上話を始めた。