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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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緋色の追憶≪序章≫

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 ピイピイピイ……チチチチチ……

「はあ……」

 小鳥の鳴き声を間近に聞きながら、森の中の散策を楽しんでいたフォンテーネは、開放感から大きなため息をつくと、木々の梢を見上げた。木漏れ日がまぶしい。思わず目を閉じる。

「久しぶりだわ。こんなにゆったりした気持ちになったのは……」

 フォンテーネは目を閉じたまま、ゆっくりと緑の香りをかぎ、光のシャワーを浴びるのだった。それから、目を開けると、ふたたび歩き出した。

 足元に咲く可憐な花を摘みながら、次第に奥へと歩いて行った。

「この花でお部屋を一杯にしたら、なんて言われるかしら? いえいえ、それよりも彼女にこの花をプレゼントしたら、どうなるかしら?」

 フォンテーネはくすっと笑うと、女中頭の気むずかしい顔を思い出しながら花を摘むのだった。

 しばらくして気がつくと、かなり森の奥へと入り込んでいた。森の中はきちんと手入れがされており、振り向けば元来た道は容易にわかるので、迷ったわけではない。しかし、フォンテーネは困ってしまった。つい夢中でここまでやってきたが、もうそろそろ城の中ではフォンテーネがいなくなったことに気付いた女中達があわてて探し回っている頃だ。

 急いで戻ったとしても、城に着くのは日が傾きかける時間になってしまうだろう。フォンテーネは再びあの女中頭の苦虫をかみつぶしたような顔を思い浮かべた。

「どうしましょう。帰りたくないわ……」

 半べそをかきながらつぶやいた。けれど、帰らないわけにはいかないのだ。しかたなくとぼとぼと元来た道を引き返し始めた。そのとき、木陰にちらっと人影を見たような気がした。

「だれか、いるのかしら」

 もちろん、こんな森の中にいる人といえば、森番くらいだろう。フォンテーネは馬車に乗せてもらえたら早く城に帰れると思い、人影の見えた方へ向かった。
 貴族の娘が森番の馬車にのるなどもってのほかなのだが、フォンテーネは身分など気にしない質であり、なおかつこのときは急いで帰らないと叱られてしまうと言う恐怖の方が先に立っていたので、深く考えもしなかったのだ。

「いた」

 フォンテーネが見つけた人影は少年だった。ぼろをまとってはいたが、輝くような金髪の持ち主で、光を放っているように見えた。少し離れた場所から見つめるフォンテーネに気付かず、少年は黙々と払ってきた下枝を束ねては馬車の荷台に積み上げていた。フォンテーネはそっと近づいていった。