緋色の追憶≪序章≫
ドアが開いて、誰かが入ってきた。
そちらを見ようと体を動かしたが、かすかに首が動かせただけだった。しかし、入ってきた人物は、そのユウコのかすかな動きも見逃さなかった。
「やあ、気がついたね」
のぞき込んできたのは、さきほどの若者だった。
ユウコは声が出せなかった。急に胸がいっぱいになって、涙があふれてきた。
「泣かないで。こうしてあえたんだから」
若者は真っ白な絹のハンカチで、ユウコの涙をぬぐった。
「なぜ？」
ユウコが震える声で若者に問いかけると、若者は悲しそうにほほえみを返し、
「君の……顔だ」
ぽつりとつぶやいた。
「ええ」
ユウコはうなずいた。
そして、そっと手を伸ばすと、若者のほおにふれてみた。
「なんだか、変な感じ。昔の自分の顔が、今のわたしを見ているなんて」
若者はユウコの手を握りしめた。しばらくの間、二人は見つめ合った。
「どれくらい経ったのかしら」
沈黙の後、ユウコはまた若者に尋ねた。
「５００年かな」
「そう。もうそんなに……」
ユウコは目を閉じ、記憶の糸をたぐり始めた。断片的にしか思い出せないが、目の前にいる若者と自分とが、どんな関係なのかは理解できていた。ユウコはふたたび深い眠りに落ちていた。