緋色の追憶≪序章≫
門を入ってからもしばらくの間屋敷は見えてこなかった。広い庭は丁寧に造られており、幾種類もの花が咲き誇っている。いくらか心が落ち着くのを感じた。
そして、ようやく馬車は豪奢な屋敷の玄関で止まった。
「さあ、つきましたよ」
冷たい目の年増女が言った。
御者が扉を開ける。
「さ」
女に促されて馬車から下りると、重い鉄の扉の前に立った。その威圧感に思わず息をのんだ。
「今日から、ここがあなた様のおうちですよ。どうぞ。フォンテーネさま」
──フォンテーネ?
……テーネ
……ンテーネ
だれ? わたしを呼ぶのは……?
フォンテーネ
そうだわ。わたしはフォンテーネよ。
どのくらい意識がなかったのか、目を覚ますと、知らない部屋だった。
起きあがろうとすると、めまいがする。ユウコは顔だけを少し動かして、部屋の様子をうかがった。
豪華な調度品が並べられている。校内にはもちろん、寄宿舎の応接間だって、こんなにりっぱではないはず……と、いぶかしんだ。
しかし、ユウコの意識はまだはっきりとはしていなかった。
気を失っている間、フラッシュバックのようにさまざまなシーンが浮かんできた。それらはまるで、自分が体験したかのようなリアルさで、脳裏にきざみこまれていたのだった。
そのためか、ユウコは異常な倦怠感を感じていた。