緋色の追憶≪序章≫
チチチチチ……
小鳥の声とまぶしい日差しで目が覚めた。
「わたし……」
「どうしたの? ユウコ」
ルームメイトのユマが声をかけた。
「夢……」
「夢? いやな夢でも見たの?」
ユマがユウコの顔をのぞき込んだ。
「ううん。そんなにいやな夢じゃないんだけど」
「そう。なら、よかった。さ、起きて起きて。もう朝の礼拝の時間よ」
ユウコはユマにせかされて、洗面所で顔を洗うと礼拝堂に向かった。
「で、どんな夢だったの?」
早足で礼拝堂へ向かう途中、ユマが聞いた。
「ここにきてから、同じ夢ばかりみるの」
「へえ」
「わたしは馬車に乗って森の中へ入っていくの」
「それで?」
「それだけ」
「え? それだけなの?」
「ええ、その時一緒に馬車に乗る人は、いつも決まって冷たい目をした五十歳代後半の女の人なの」
「ふうん」
「それでね。わたし、その時の髪はシルバーブロンドで青い目をしていて、ドレスを着ているのよ。そう、中世風の。日本人なのにね」
首をかしげて笑うユウコに、ユマは肩をすくめた。
ここはヨーロッパの、山と森と湖に囲まれた美しく小さな国。その首都にある全寮制の女子学院である。
父親の仕事の関係で、小さな頃から外国で暮らしているユウコは17歳になったばかりの時、この学院に編入してきた。
母親が自分の両親の介護のため日本に戻ることになり、一度はユウコも一緒に帰国することになった。しかし、どうしても日本に帰る気にならなかったユウコは、父に懇願して寄宿舎のある学校を探してもらった。
イギリス、フランス、ドイツと、かつて過ごしたことのある国々から父はいろいろ探したが、ユウコはそのどれも気に入らなかった。けれど、最後に父が探してきたこの学校に、なぜかユウコは心ひかれ、迷わず編入することに決めたのだった。