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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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緋色の追憶≪序章≫

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ユウコ


 馬車は森へ入った。
 小鳥のさえずりがこだまし、木漏れ日がスカートの上にまだらのかげを落とす。
 家を出てから何時間たっただろうか。目の前にいる年増の女はつんとあごを突き出したまま、身じろぎひとつせず座っている。その威圧感は馬車に乗ってから、いや、迎えに来たといって、自分を馬車へ誘ったときから感じていた。
 話しかける雰囲気などなく、鋭いまなざしに射すくめられ、ただじっと座っているばかりで、あくびをかみ殺すのが精一杯だった。
 けれど、森に入ったという少しの変化が、自分の気持ちを和らげてくれたようだった。風に乗ってくる緑の匂いや葉擦れの音が、緊張をいくらかほぐしてくれたのだ。
 窓の外に目を移す。飛び込んできた鮮やかな緑がまぶしくて思わず目を閉じる。
「もうすぐですよ」
 そのことばにはっとして目を開けた。年増の女が言ったのだ。
 きょとんとして顔を見る。
「もうすぐつきます」
 女は抑揚のない、いくぶん低めの声でまたそう告げた。
「はい」
 小さく、つぶやくように答えながら頷いた。
 森は更に深くなり、あたりは昼だというのに薄暗くなった。
 そのとき馬車が止まった。
「おかえりなさいませ」
 しゃがれた声が外から聞こえた。おそらく門番なのだろう。
 ギギギィ
 重そうな鉄の門が開く。
 馬車は再び動き出し、門の中へ入った。