最後の魔法使い 第七章 『覚悟』
アレンはまた将軍たちの方を見やった。ジュダの家の周りはすでに火の海だった。自分が作り出す炎では熱を感じなかったが、将軍や兵士たちが繰り出す火の魔法は、それこそ息ができなくなりそうなくらい、熱く感じた。それはジュダやディディーも同じことだった。幸い3人がいる茂みは火を免れていたが、このままではあと数分も持たないことは確実だった。アレンが逃げていなくなったからといって、2人の命が保証されるとも限らなかった。
それでもジュダは自分に逃げてもらいたがっている。無論、そうしようと思えばできるはずだ。数週間前の、ただのロウアーだったころのアレンなら、そうしただろう。あの夜マチルダに急かされて故郷を出たように、後ろを振り向かないで走ることができたかもしれない。
だが、今となっては、アレンはそのことに我慢が出来なかった。政府軍に対してでもあったが、自分のふがいなさにも嫌気がさしていた。目の前で故郷を焼かれ、追い出されて、そして今またこうして、自分の恩人がすべてを失うのを目の前で見ている。自分にはなにかできるはずなのに。茂みに隠れて逃げるタイミングを見計らっているだけなんて…。あの日、アレンは自分がなぜ逃げなくてはいけないのかも、なぜ自分が狙われているのかも、よく理解できなかった。だが今は違う。ジュダのおかげですべてを理解できたし、また果たさなければならない役目があることも、アレンには分かっていた。
「ジュダさん、さっき、俺にしかできない魔法があるって言ってましたよね。」アレンは自分が驚くほど冷静な声で言った。
作品名:最後の魔法使い 第七章 『覚悟』 作家名:らりー