日和
俺と綾瀬は写真部に所属している。写真部なのに出店なんてやるのは、まともに活動していない証拠だ。部員はわずか4名、俺と綾瀬と幽霊と3年の部長だけだ。部長は文化祭なんかのんびりやる余裕は無いし、幽霊は顔を出さないので、俺が綾瀬を笑わせるつもりで言った出店が行われることになってしまった。・・・それで、綾瀬が死ぬことになるなんて俺は信じられなかった。
「お好み焼き。簡単でおいしいと思うの。前田君も好きでしょ」
「ああ、好きだよ(君が)」
「クラスの出し物は何もしなくてほんとにいいのかな」
俺らのクラスの出し物は個人個人が持ってる珍しい物を並べるだけだ。俺は河童のミイラと言って、干からびた豚肉を出すことにしている。
「ああ、別にいいと思うぞ。・・・つか、担任、よくあれでいいなんて言ったな」
愚の骨頂、ここに極まる。
俺と綾瀬はその後、てきとうな調理道具を調達した。今日はそれで学校生活は終わった。
夜、俺は未来の俺と腹を割って話すことにした。
「俺は口を使わせてもらう。いいな。お前は心で話せ。」
分かったよ。と頭に声が響く。
「明日は文化祭準備期間だ。それで授業は無い。それでだ。どれくらいの材料を買い込めば綾瀬を助けられるんだ。あの日、何円ぐらい使ったか覚えてるか」
その日、僕だけでスーパーに行った。生生市場だよ、そして、5000円近く食材を買った。だから、その3倍の15000円使えばいいんじゃないかな
「それで間に合うのか?おい、何が足りなくなったんだ」
食材が平均的に足りなかった。殆どが足りなかった・・・・。あれは僕のミスだった。でも、学校から支給された額を考えればそれが限界でもあったんだ。
「なるほど。・・・じゃあ、もっとお前にきついことを聞くがいいか?」
何に轢かれたかだろう。しまった。心を共有しているんだ。意味が無い・・・
「不便だな。いや、それより」
いいさ、謝らなくて。それより本題だ。
「意外と淡々としているんだな。お前」
勉強すればするほど心が乾いていったんだよ。なんでだろうかな。女性を見ても、綾瀬と比べてばっかりで結局、過去を捨てれなかったんだ。
「・・・」
すまない。本題に戻ろう。トラックだ。大型のトラックだよ。俺の脳内にそのトラックのおおまかな画像が映し出される。不便だが便利なものだ。心の共有とは・・・
「じゃあ、このトラックが綾瀬の近くに現れたら何とか避難させる。それじゃあ、安心してくれ。」
ありがとう。
「よし。俺はもう寝る。」
時刻はもう深夜零時。明日は朝講座が無いが、習慣の力で俺は眠かった。
「ほらほら出てけ。お前も未来に帰って寝ろ。」
口の悪い坊やだな。
「はいはい。俺は眠いと口が悪くなんだよ」
帰れない。
「は?」
実は変える方法を考えてないんだ。綾瀬を助けたい一心で過去に戻る方法が見つかったら即、実行してしまったんだ。だから、時間的に余裕の無い二日前に来てしまったし、僕の記憶の全てを君に見せれないんだ。
「だから俺の考えばっかり読まれる訳なのか」
ああ。悪いね。
「眠気はするのか」
実は全然しない。たぶん、君が寝れば僕も寝れるはずだよ
「そうか、じゃあ。俺が寝るまで静かにしてくれ。」
分かった。
「ああ。じゃあお休みな」
…おやすみ
10分もすると過去の僕はもう眠っていた。やはり僕は眠ることはできなかった。これから彼が起きるまで僕は退屈しそうだ。なんせ、彼の思いは受信できるが彼には僕の発する全てが聞こえないみあいだからだ。しかし、もしかしたら夢をのぞけるかもしれない。そう思うと、なかなかドキドキする。さて、ついに明後日、いや、正確には明日か。もし、明日、彼女を救えなければ僕は、いや、過去の僕は・・・。救えたらどうなるかは見当はついている。でも、救えなかった間違いなく・・・。
朝、俺はいつも布団から飛び起きて頬を叩く。俺流の早起き術だ。
「よし」
大きな声で気合を入れると元気になれる。長年の経験から導き出した俺の最高の技術だ。・・・来年、朝講座のシステムは不評で廃止になる。ついでに綾瀬を亡くした僕は学校に遅刻しがちになった。
「・・・起きてたのか。いや」
そう、正確には寝てない。だけど、疲れも感じないんだ。
「お前の肉体は生きているのか」
分からない。確認してないからね
「・・・、まあ今は綾瀬を救うのが重要だろ」
そうさ。だから、今、僕のことは気にするな。
教室でホームルームが終わるとすぐさま自由行動になった。俺は綾瀬と一緒に写真部の部室に行き出店を組み立てた。午前中に順調に行き、午後は俺が買出しに行くことになった。
「おい。今のままでいいのか」
生生市場に行く途中、俺は未来に聞いた。ああ。今のところはあの日のままだ。
「だから、時々、俺は涙を流してたわけなのか」
・・・すまないね。またまた綾瀬と一緒だと思うと嬉しくてでも、悲しくて
「頼むからもう泣かないでくれ」
そうだね。迷惑だった。
「ちげぇよ。悲しい未来は俺が消す」
・・・。ああ。頼む。途中、同じ学校の奴に変な目で見られ板が気にしない。
30分後、俺はお好み焼きの材料を15000円分買い込んでいた。一万は自腹だ。畜生。しかし、あのかわいい綾瀬の命を思えば安すぎる値段だった。
「これが命の値段か・・・」
不謹慎だな。君は。
「軽い冗談だ。気にしないでくれよ」
まあ、それは分かるが。 で く 。
「え?」
いや、なんでもない。気にしないでくれ。
「そんなに買ったの。お金すごいんじゃないの」
部室に帰ると綾瀬がとても驚いた。まあ、両手に持っている袋のふくらみは確かに異常ものだしな。
「ああ、備えあれば憂い無しって言うだろう」
「でも、お金のほうが・・・」
「久保、気にすんなよ。俺が楽しくてやっちまっただけだからよ」
「・・・でも」
「おらおら、当日買出しとかで事故ったらつまんねえだろうが」
「はは。・・・おもしろいよね。前田君」
「ああ。(笑った君がとても素敵で楽しいから)可笑しいのは好きなんだ」
不思議なことにこんなやり取りをしても未来は泣かなかった。
その日のうちに、俺ら二人の準備は整った。時々、手が触れたり話したりしまくったから、もしからしたら綾瀬は俺のことが好きなのかもしれない。それは即ち・・・。
「両想い・・・。」
ごくり、と生唾を飲んだ。
「おい。未来」
不思議なことに未来の反応がさっきから妙に無い。
どうした。僕に何か用か。
「いや、お前の反応が今日は何か悪くてよ。何か調子でも悪いのかと思ってよ。」
そんなことはない。やっとこの状態をコントロールできるようになったんだ。現に午後は泣かないで過ごせただろう。
「まあ、そういうことならいいんだが。」
そういうことだ。
「・・・そうか。今日はもう寝る。明日は盛大に楽しみ、そして、綾瀬を救うからな」
ああ。・・・ひとついいか?
「何だ」
誓ってくれ。必ず彼女を救い、幸せにする、と
「どうしたんだ急に。まあ・・・。誓うよ。俺、前田一期は久保綾瀬を救い幸せにします。いいか」
ああ。ありがとう。