ロボット二連作
ゆっくりと、しっかりとした足取りで、三機は地震のように歓声が響くレース場に顔を出した。さっきまで居た格納庫なんかより二、三度は温度が高い気がした。素手で触ると火傷をしそうなコンクリートの地面に、何万という観客の大歓声。あまりに大きなそれは、レース場そのものが大声で鳴いているよう。
仕切られた隣の通路からは、チーム・ダイナムの超重機が軽やかな足取りでぞろぞろと出てきていた。白いスタートラインの前まで、観客に手を振りながら歩く。それらを横目に見て、自分たちも位置に着いた。
「もう一度言うが、相手が歴代最長のチャンプだからと言って気にすることはない。いつも通りの走りなら、彼らに負けるはずがない」
「わかってますよ、監督」
「万事オッケーだぜ!」
「もちろん」
ルカとアツシの快活な声の後に、イッキも続けて返事をした。てのひらの汗をふとももで拭い、ハンドルを握り直す。最後にメインカメラの明度を調整して、正面のコースを見つめる。
「イッキ、フォワードである君が勝利の鍵を握っている。心配はしていないが、しっかりな」
凛々しくて、優しい声が聞こえる。深呼吸をした。
「はい……そうだ、監督」
「なんだ」
「今から優勝祝いをオネダリしておきます。これが終わったら、今度こそデートしてくださいね」
「なっ……!」
スタート地点からピットは見えないが、きっと赤面していることだろう、美貌の女監督は。その様子を想像して、笑みがこぼれた。ルカとアツシの二人からは、やれやれという呆れた声がした。
「約束ですよ」
赤・赤・緑とライトが点灯したのと同時に、チェッカー・フラッグが振られ、超重機は滑るように走り出す。
勝者を想像するのは、そう難しいことではないだろう。
2012.07. 塩出 快