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ロボット二連作

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サクラ杯の勝者



さあ! 今年もこの時期がやって来ました! 世界三大レースにも数えられるサクラ杯!
日本国内のみならず全世界が白熱するこのレース! 各国の超重機メーカーがしのぎを削り、超重機の限界に挑むチャレンジの場でもあります! 日本で高温超電導に適したレアメタルが採掘されて以来、重機を超えた「超重機」の存在は人間社会になくてはならないものとなりました! もとは土木工事専用だった重機も、「超重機」の登場からはその枠組みを飛び越えて、危険区域での人命救助、単純な移動手段として、高地や海中での開発・調査など、様々なシーンで活用されています!
勿論! サクラ杯をはじめとする超重機レースもその一つ! しかも! 超重機レースはただの娯楽ではなく、各チームのメインスポンサーとなった超重機メーカーが自社製品の性能を誇示する場でもあります! レースの勝利は直接メーカーの勝利へ! 超重機メーカーとして成功するためには、レースを制する必要があります!
そんな超重機レースの金字塔・サクラ杯の勝敗が今日! この一戦で決まります! 特に今回は、昨年その連覇記録に終止符を打った、いや打たれたチーム・ダイナムが再び王者の貫録を取り戻すのか! それとも! 歴史こそ浅いがその技術力は類を見ない! チーム・ダイナムを玉座から引きずり落としたニューウェーブ! チーム・ドラゴントゥースが二度目の栄冠を飾るのか! 今後の超重機界に大いに影響を与える、注目の一戦であります!
それでは! サクラ杯、ラストレースのスタートです!



「ついにこの日が来た。ただし、いつも通りで構わない。そうすれば、勝てる」

 チームの控室で、最後のミーティングが行われる。ミーティングといっても、作戦やコンディションなんかを確認する段階は既に過ぎた。チーム・ダイナムの分析データなんやを放り出し、このわずかな時間で行うのは、腕を組んだ監督による叱咤激励――。
「勝ち以外は許さないからな」
 パイロットの三人は、深く頷き控室を出た。愛機がスタンバイされている格納庫へ、暗い廊下を走る。監督をはじめ、関係者も控室を出た。彼らが向かうのは、格納庫ではなくピットである。
 ここはレース場、それももっとも権威のある国内最大級の、超重機専用のレース場だった。今日はここで日本全国が注目するレースが行われる。昨年まで優勝を逃さなかったチーム・ダイナムと、それを下した新進気鋭のチーム・ドラゴントゥースの対戦という好カード、更に、今日勝った方が、そのまま今季の優勝チームとなる。
 イッキは窮屈なパイロットスーツを着て暗い廊下を駆け抜ける。伸縮性に富んで、軽く、吸汗機能も発達した特注品を窮屈だと感じるのは、どうにも体にフィットしすぎるせいだった。年頃の男に、これは恥ずかしい。
「いつも思うけど、控室から格納庫、遠いよね」
「それを、レース前に全力疾走している俺らってなんだろう」
しかし、同じ格好が三人も並べばなんとか耐えられるものだった。チームメイトのルカとアツシはどう思っているかわからないけれど。ルカはレース場の構造に、アツシは今の自分たちの行動に疑問を持っているようだ。
「嫌いじゃないよ、この時間」
 走れ、と脳が足に伝えるより前に、勝手に動いているみたいだ。そうして手を振り乱し、息を弾ませながらしゃべるのは馬鹿馬鹿しい。でも今の高揚感の中、黙っていることなんて出来なかった。
「これから超重機に乗って、音より早いスピードの世界に飛び込むんだ。ウォーミングアップに丁度いい」
「ほお、なるほど」
「珍しいね、イッキ君がそんな詩的な事言うの」
 スピードは落とさずに曲がり角を曲がって、三人は明るい部屋に飛び出した。格納庫に着いたのだ。メンテナンスも行うそこは、高い天井に嵌められたライトが煌々と格納庫の隅々を照らしている。それぞれが愛機の足元まで走り、待機していたエンジニアの手からキーを掻っ攫って、そのままの勢いで超重機に乗り込んだ。
「詩的……かな?」
「うん。素敵。音より早いスピードの世界、なんて」
 操縦席に置かれたメットを頭に被る。それに付けられたインカムを通じて、チームメイトの声はどこまで離れても聞こえた。時にはこれで監督から指示が出る。
 シートに深く腰を下ろして、安全ベルトを締める。ペダルの位置を確認し、キーをさして一回捻るとエンジンが掛かったのが音でわかる。ここまではただの重機を同じだが、この次にパイロットがしたのは、正面ディスプレイの電源を入れることだった。
「ただ、レースはスピードだけじゃない。特に、サクラ杯はチーム戦なんだもの。それを忘れないでね」
「そうだぞ、お前はすぐ突っ走るからな! イッキ!」
四方を機械の壁に囲まれ、薄暗かった車内はディスプレイが起動したことによって昼間の室内程度には明るくなっていた。
「わかってるさ」

「準備はいいか」
 インカムを通じて、少し籠った監督の声が聞こえる。彼らもピットに入ったのだろう。声の向こうで観客の声援が聴こえていた。それに比べ、監督はいつだって冷静で、抑揚のない声だ。ただ、その心の内には勝利への渇望が熱く渦巻いているのを、三人は知っていた。監督は、いつだって勝つために自分たちを導いてきた。
「問題なし」
「ちょっと暑いよ。俺大丈夫かなあ」
「……」
 ディスプレイには、今居る格納庫内の様子が映し出されていた。タブレット型コンピュータを抱えたエンジニアたちに、くたびれたチームジャケットを着た整備主任が見える。誰もが自分たちの乗った超重機を期待と決意の目で見つめている。必ず勝ちを取るのだと。
「イッキ、聞こえているのか」
「ああ、いつでもいいよ」
 超重機の調子は完璧だった。この巨大なロボットがどんな仕組みで動いているのかなんてイッキにはわからなかったが、それでも、今日の「ドラゴントゥース」がいつもと違うということがわからないほど、鈍感なパイロットではなかった。流石、気合の入ったメンテナンスである。いや、「ドラゴントゥース」本人も、今日という日を勝ちで飾るべく気合いを入れているのかもしれない。超重機はロボットだ。重機と呼ばれてはいるが、二足歩行でどことなく人間に近い見た目をしていて、コンピュータに制御され動いている。人間が乗らなくても、おそらく超重機は動くだろう。特に原因がなくとも、調子が良い時もあれば、悪い時もある。そんな代物に「意志」がないとはイッキは考えられなかった。
「頑張ろう、ドラゴントゥース」
 ドラゴントゥースが歩き出す。イッキの言葉に呼応するようにエンジンが唸り、雄叫びを上げた。
 格納庫から出て、またも薄暗い通路を少しばかり通って、太陽の下に出る。暗いところから、急に明るい場所に出たのでディスプレイが一瞬眩しくなり、そして徐々にもとに戻った。この瞬間、イッキはドラゴントゥースの目が、人間のそれと同じように明順応したのだと感じる。
 
作品名:ロボット二連作 作家名:塩出 快