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神さま、あと三日だけ時間をください。~Last Scene~

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 実は美海はジェットコースターが大好きなのだ。高いところから一挙に落ちていくあの独特のスリルというか感覚が堪らない。
 美海がわくわくしながら言っても、隣からは返事がない。怪訝に思って振り返ると、シュンはもう真っ青で震えていた。
「白状するわ。俺、高いところがてんで駄目なんだ」
「もしかして、高所恐怖症ってヤツ?」
「そのとおり。だから―」
 言いかけたところで、いきなりジェットコースターが滑り出し、シュンが悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと、これは凄ぇ、やべえよ」
 結局、下に降りてしまうまで、シュンはまるで女のような金切り声を上げ続けていた。すぐ後ろの若い女の子数人のグループがクスクスと忍び笑いをしているのも聞こえた。
 ジェットコースターが水上めがけて着水した瞬間、シュンは何も言わなくなった。美海は彼が眼を回しているのではないかと心配したのだが、流石に失神まではしていなかった。
 スタート地点までやっと戻ってきて、二人は係員の誘導でジェットコースターから降りた。
「俺、もう二度とこのジェットコースターには乗らない」
 シュンがまだ蒼白い顔で恨めしげに言った。美海はもう、笑いが止まらない。
「何で、そんなに嬉しそうに笑うんだ?」
 シュンが恨みがましい眼で掬い上げるように見つめてくる。
「だって、シュンさんったら、もう凄いんだもの。皆、ジェットコースターよりもシュンさんの絶叫の方に愕いてたみたいよ」
「ああ、どうせ俺は臆病者ですよ。後ろの女の子たち、めっちゃ笑ってやがった。畜生、最近の中学生ときたら、失礼なやっちゃ。今時の若いもんは礼儀も知らんのやな」
 自分だってまだ二十二歳の癖に、大人ぶって言うシュンが微笑ましい。
「久しぶりに出たわね。シュンさんの大阪弁」
 美海が笑いながら言うのに、シュンは顔をしかめた。
「せやけど何が失礼いうて、ミュウがいちばん失礼やで。俺のこと、そんなに笑わんでもええやないか」
「高所恐怖症なら、初めからそう言えば良かったのに」
「ミュウが乗りたいっていうから、我慢したんだよ。それにジェットコースターにいちばん最後に乗ったのは中二のときだから、流石にもう克服してると思ったんだ!」
 自棄のように言うシュンに、美海は〝はいはい〟というように頷いた。
「判りました、判りました」
「あー、その顔。全然、反省してないだろ」
 シュンがむくれたように言い、美海は笑いながら首を振った。
 それからメリーゴーランドに乗って、次はミニレール。これは園内をカタコト走る小さなSL列車で、小さな子どもが多く乗っていた。
 二人乗りの狭い車両に仲良く並ぶと、シュンと身体がぴったりと密着する。それには少し胸の鼓動が速くなったが、シュンの方は実に楽しげに眼を輝かせているので、美海のそんな戸惑いもすぐに消えた。
「シュンさん、楽しそうだったわね」
 ミニレールから降りて並んで歩き出しながら言うと、シュンは憮然として言った。
「どうせ俺はお子さまだよ」
 最後は観覧車に乗る。これもジェットコースターと同様、この遊園地の呼び物の一つである。日本でも五本の指に入る規模を誇り、真上からの眺めは最高だと評判であった。
「これも高いところまで行くけど、大丈夫なの?」
 先刻のことがあるので念のために訊ねたら、シュンは少しむくれた顔で言った。
「ゆっくりなのは大丈夫。それに、観覧車は箱の中にいれば良いから、守られてるっていう安心感があるんだ」
 そろそろ長い夏の陽も傾き始めている。二人が乗り込んだ観覧車が丁度、真上に来た時、既に背景の空は薄紫に染まっていた。
 町の灯りが闇夜を照らすキャンドルのようにちらちらと瞬いている。
「キレイね」
 美海は広い窓ガラスに顔を押し当て、外の景色を楽しんだ。
「なかなかだろ?」
 シュンが余裕の笑顔で言う。もう、例の高所恐怖症の名残はすっかり消えたようである。
「ミュウ、ここに来て」
 シュンが手招きするので、向かいに座っていた美海は何の疑いもなく立ち上がり、隣にいった。と、ふいに身体がふわりと持ち上がり、膝の上に乗せられた。
「シュンさん?」
 しかし、抗議する暇もなく、シュンの唇が降りてきて唇を塞がれた。
「シュ―」
 一旦離れた唇はまた角度を変えて降りてくる。シュンは何度も離れては美海にキスしてきた。口づけは次第に深くなってゆく。
 シュンの舌が侵入してきたので、美海もまた戸惑いがちに彼の舌に自分の舌を絡めた。
 唇を深く触れ合わせながら、ゆっくりとシュンの手が下に降り、美海のブラウスの上をすべり降りる。やがて、胸の先端まで辿り着くと、キュッと力を込めて押された。
「!」
 あまりのなりゆきに、美海は烈しく抗った。小さな手でシュンの広い胸を押し返そうとするが、美海の力ではビクともしない。
 もちろん薄い夏用のブラウスの下にはブラをつけてはいるが、琢郎の強引な愛撫によってすっかり開発されてしまった身体は、ほんのわずかな刺激によっても呆気なく反応を返すようになってしまった。
 今もシュンが胸の突起を押す度に、触れらられた部分から妖しい震えが走り、荒い息が洩れる。
「感じてるの、ミュウ?」
 シュンの声も少し掠れている。
「シュンさん、こんなことは止めて」
 美海は必死で頼んだ。
「ミュウの胸って、結構大きいよね」
 えっと美海が眼を見開くと、シュンが含み笑う。
「初めてデートした日の最後、君が俺を抱きしめてくれただろう? あの時、もろに俺の顔がミュウの胸に当たってたんだぜ。あんまり大きなおっぱいなんで、俺、窒息しそうにになっちまったけど。ミュウ、何カップなの、教えてよ」
「シュンさん、お願い。そんな話は止めましょう」
 こんなはずではなかった。美海は溢れそうになる涙を堪えた。
「ミュウは気づいてる? 黒いブラが白いブラウスから透けて、丸見え。凄く刺激的でセクシーなんだ。下のパンティもお揃いだよね、もちろん」
「そんな話はしたくないわ」
 美海はとうとう泣き出した。
 信じられなかった。それまで優しかったシュンがまるで別人のように美海の身体をまさぐり、嫌らしい聞くに堪えないようなことばかり囁いてくるのだ。
 美海がすすり泣くと、シュンはしばらく黙り込んだ。
 やがて盛大な溜息が聞こえた。
「参ったなぁ。これくらいで泣くとは思わなかった。ミュウ、ごめん。ミュウが嫌がるのなら、もうこんなことは言わないし訊かないからさ、泣くのは止めて機嫌直して」
 やがて、観覧車が地上に到着する。シュンが先に降りて手を差しのべてくれたが、美海は首を振り自分一人で降りた。
 それからの二人は殆ど喋らなかった。遊園地を出て、近くのIホテルに行き、フロントでチェックインする。Iホテルはビジネスホテルを少しマシにした程度のホテルだ。
 フロントで手続きを済ませていると、シュンと受付係の男性との会話が美海の耳に飛び込んできた。
「それでは、ご予約どおりツゥインでお部屋を一室ご用意しておりますので、これからご案内致します」
その瞬間、美海は慌ててフロント係に言った。
「済みません、お願いしたのはシングルで個室二つのはずですけど」