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神さま、あと三日だけ時間をください。

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 会話もそれにふさわしく、アラフォーになってもまだどこか世慣れていない美海には信じられないような過激なものばかりだ。
 人間とは、おかしな生きものだ。それが見たくない―いや、この場合は見てはいけないと言った方が適切かもしれない―と思うような内容であればあるほど、何故か見たくなるという傾向がある。
 美海もその例に洩れず、知らない中に画面を食い入るように読んでいた。
 どれもが似たような内容が続いている。男が女を誘い、女がそれに応えて、恥ずかしげもなく、あられもない姿を晒している。中には男女が互いに一枚ずつ脱いでいく過程をいちいちご丁寧に画像にしてアップしているカップルまでいる。もちろん、画面の向こう側とこちら側で脱ぎ合っているのだ。
 後はイメプ、つまりイメージプレイ。画面の卑猥な言葉や画像を相手に見せつけることによって互いに興奮し、自慰行為に耽るということだ。ひと昔前のテレホォンセックスのようなものか。
 自分の妻の恥ずかしい姿を何枚も撮り、それらを平然とアップする夫。また、それを涎を垂らして眺める画面の向こう側の男たち。酷くなると、
―誰か妻と真剣にセックスして下さる方はいませんか?
 と奥さんの裸をアップし、呼びかけている夫までいる。
 更には家出娘かと思われる女子高生が
―誰か泊めてください。
 と訴え、まるで獲物に群がるハイエナのように名乗りを上げる男たち。
 自分の下着姿を晒し、相手の言うがままに脱ぎ足を大胆に開くOL。
 全く眼を背けたくなるような惨状であった。
 こんな世界が現実に存在するとは、これまで考えたこともなかった。三十九にもなって何という世間知らずかと他人は嘲笑うかもしれない。しかし、それが美海の生きてきた世界であり、想像できる限界であった。
 今、美海が眼にしているのは彼女が生きてきた世界とは全く別の―いわば裏側の世界ともいえた。よく小説やドラマでは、このテの世界を眼にする機会はあるけれども、本当に存在するのかと半信半疑であった。
―生理中の妻です。
 とのコメントのついた写真は、ロングヘアの茶髪女性がブラとパンティ姿で座っている。もちろん、大股をひろげている。
―そちらの奥さんは、生理用のパンティでも色っぽいですね。もーう、たまらんわ。奥さん、一度、俺に貸して~。
 誰かがコメントを返している。
 美海は思わず顔を背けた。幾ら何でも、これはあまりに酷い。妻の裸をアップする夫も夫だけれど、それに歓んで協力する妻もどうだろう。その他にも、同じ奥さんが乳房を丸出しにして料理したり、尻を剥き出しにして四つん這いになっている姿がアップされている。信じられない世界だ。
 こんなサイトは見る価値もない。美海がそう思って画面を変えようとしたそのときのことである。
―俺、今、何となく人恋しい気分。良かったら、少しだけ俺と話しませんか? シュン
 投稿者の大多数が性的な匂いを濃厚に漂わせ、或いは露骨に表現している中で、その一文はやけに目立ったというか場違いな感じがした。
 人間、生きていれば辛いこともある。そんな時、一人ぼっちだと、余計に悲壮感も増すものだ。最悪の場合は、この世の中の自分以外のすべての人間は幸福なのに、自分だけが不幸だなんて思ってしまうこともある。
 美海は何となく、このメッセージを投稿した人の気持ちに共感できた。今の彼女自身の気持ちがそうだったから。
 少しだけなら、メッセージを送るくらいなら、大丈夫よね。
 そう思い、投稿フォームに画面を切り替えた。
―誰かと話したいときって、誰でもありますよね。何か悩んでいるんですか?  ミウ
 メッセージ欄に入力してから、流石に実名はまずいと思い、名前を〝ミュウ〟と変えた。
 何だか子猫の名前みたい。自分でもおかしくなった。ミュウだなんてハンドルネームを使ったら、このメッセージの送り主はさぞ若い女性からものだと勘違いするかも。
 でも、一度、メッセージを送るだけなら構いはしないだろう。
 件名が空欄だったので、〝こんばんは〟と適当に埋めてから、送信する。まさか返事が来るとは思わずに待っていると、すぐに返信が来た。
―ちょっとプライベートで色々とあったもんで、落ち込んでます。慰めてくれないかなあ。
                 シュン
―何があったのか訊いても良いですか?
                 ミュウ
―バイト先でね、トラブったんです。シュン
―トラブルって、どんな?    ミュウ 
 気がついたときには、やりとりしたメッセージは軽く十通を越えていた。二度くらいなら、三度までなら―。そんな感じで〝シュン〟という相手とメール交換していたのだ。
 流石に、これはまずいなと思った。でも、考えてみれば、他の投稿者と違って、この人は特にセックスについて触れるわけでもないし、いやらしい要求もしてこない。
 それならば大丈夫、と自分に半ば言い訳のように言い聞かせた。その後も、しばらく美海は画面の向こうの見知らぬ男とメールで語り続けた。

♭ミュウとシュン~MailsⅠ~♭

六月○日 
 今日はめっちゃ、暑かった~。もう梅雨明けしたのかと思っちゃうほどだったよ。そっちはどうだった?        シュン
          ↓
 こっちは一日中、雨で嫌になっちゃう。シュンさんの住んでいるところは南の方なの?
               ミュウ
          ↓
 南っていえば、南の方だけど、本州だよ。ミュウはどこら辺?      シュン
          ↓
 私も本州。ど真ん中だよ。  ミュウ
          ↓
 今日はバイトが夜まで入ってて、物凄く疲れた。こんなとき、ミュウの顔が見られたら良いのにな。        シュン
          ↓
 こうやって、メッセ交換できるから、それで良いでしょ。        ミュウ
          ↓
 でも、メッセだけじゃ、物足りないよ。俺は最近、そう思うやねんけど。ミュウは?
               シュン
         ↓
 シュンさん、その時々、出てくる怪しげな大阪弁は何?         ミュウ
         ↓
 ハハ、怪しげねえ。俺、子どもの頃、大阪に住んでたことがあってさ。それで今も油断したら、大阪弁がぽろりと出るねん。シュン
         ↓
 大阪か、良いな。私は小学校のときの修学旅行で一度、行ったよ。でも、大阪も良かったけど、いちばん想い出に残ったのは京都だったな。             ミュウ
         ↓
 大阪から京都だったら、すぐだよ。ミュウ、一度、一緒に遊びにいこうか。
         ↓
 う―ん、行きたいけど、無理そうかな。
                ミュウ
         ↓
 俺、ミュウに逢いたいよ。いつもこうやってメ―ルだけじゃ、つまらない。  シュン
          ↓
 無理言わないでよ、シュンさん。ねえ、バイトで疲れてるんでしょ。今夜はそろそろお休みしよう。          ミュウ
          ↓