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神さま、あと三日だけ時間をください。

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「私は別に、あなたに抱いて貰わなくても結構よ。別に子どもが今更、欲しくなったわけでもないし」
「子ども? 俺はもうその話は聞きたくないと言ったはずだぞ? また持ち出すのか」
 琢郎の眉がつり上がる。大学時代はそこそこのイケメンであったのに、三十代に入ってからは額が後退して、今ではかなり禿げ上がってしまっている。そのせいで、折角の整った容貌よりも額の広さだけが目立ち、実年齢よりもかなり老けて見えた。
「あら、そう? 私が言いたいのは子どもそのもののことじゃなくて、子どもでも望まなければ、あなたとはセックスする気にもなれないってことなんだけど?」
「それは、どういう意味だ?」
 琢郎の眉間の皺が深くなる。
 言ってはならない。これ以上、言うべきではないともう一人の自分がしきりに囁きかけていた。恐らく、これから美海が口にしようとしている科白は、男が最も嫌う科白―言われたくないものに違いないだろうから。
 しかし、この期に及んでは、美海も止まれるはずはなかった。そう、もうずっと自分は我慢していた。いつも琢郎の顔色ばかり見て、怒らせてはいけないと思って。
「私がしたいから、付き合ってやるですって? よくもそんな思い上がった科白が言えるものね。あなたとやることが、そんなにありがたがるほど良いものだと、あなた、本気で思っているの? ただ突っ込んで出して、それで終わり。感じるも何もあったものじゃない。自分だけ終われば、はい、今夜はおしまい。そんなので女が満足できると思う?」
「お前―」
 琢郎の握りしめた拳が戦慄(わなな)いている。
「俺が下手くそだ、女をろくに感じさせられもしない男だと、お前はそう言うのか?」
「私だって、ここまで言うつもりはなかったわ。でも、あんまりでしょ。不妊治療していたときだって、あなたはいつもこうだった。お医者さまから教えて貰った排卵日だから、私が誘ったのは判っているのに、お前は好き者だ、やりたがりの淫乱女だとか、色々と酷いことを言ったじゃない? でもね、琢郎さん。今だから言うけど、あなたとのセックスは、そんなにふるいつきくなるほど良いものじゃなかったのよ」
「くそう、言わせておけば言いたい放題、言いやがって」
 琢郎がふいに美海に飛びかかった。
 悲鳴を上げるまもなく、美海は広い寝台に押し倒されていた。
「何をするの!」
 美海が叫ぶと、琢郎が真上から彼女を押さえつけたままの体勢で喚いた。
「そんなに感じられないというのなら、今夜は徹底的に感じさせてやる」
「―止めて。こんな気持ちのまま、気持ちよくなんてなれるはずもないし、あなただって、同じでしょう」
「お前は俺を男として能なしだと言ったんだぞ?」
「誰もそんなことを言ったわけでは―」
 皆まで言えなかった。いきなり噛みつくようなキスをされたからだ。荒々しく唇を塞がれ、美海はもがいた。
 高価なネグリジェが乱暴に引き裂かれた。
「これでも感じないというのか? え?」
 琢郎の指が露わになった美海の乳房を巧みに揉みしだく。まだ出産も授乳の経験もない美海の胸は形もさほど崩れてはいなかった。固く尖った先端も薄いピンク色だ。
 円を描くように乳輪をなぞられ、美海のしなやかな身体が一瞬、ビクンと撥ねた。ネグリジェの裾が捲られ、両脚を目一杯に開かされる。琢郎は美海のほどよい大きさの乳房を揉みしだきながら、両脚の狭間に指を差し入れた。乳房と下を同時に攻められては堪ったものではない。
 しかも、その夜に限って、琢郎はこれまで見せたこともないほど熱心で巧みだった。乳房を揉まれている間も、彼の指は数本に増やされ、果てのない抽送を繰り返す。
 美海の中で何か言葉にはできないものがうごめき始め、爆発しようとしていた。
「あぁっ」
 ひときわ感じやすい場所を指でこすられ、美海の身体がびくびくと震えた。
「琢郎さん、お願い」
 美海は潤んだ瞳で夫を見上げた。
「どうした、もう早々と根を上げて、おねだりか?」
 琢郎がしてやっりと言いたげな笑みを浮かべた。
「違う―の。これ以上は止めて欲しいの。さもなければ、私―」
 気が狂ってしまいそう。そう言いかけた美海はひときわ高い嬌声を放った。
「うっ、ああ―」
 琢郎が美海の乳首を吸いながら、骨太の指で美海の感じやすい内壁に狙いを定めてこすり上げ、更に最奥を突いたからだ。
 それは、美海がこれまで感じたことのないほどのめくるめく快感であった。まるで焔に身体全体を炙られ、灼き尽くされているような感じだ。苦しさは限界に達しているというのに、同時に同じだけの快さも感じていて、これ以上の快感を与えられ続けたら、死んでしまうとさえ思えるほどだった。
「ああ、あ」
 限界まで高みに押し上げられたかと思うと、いきなり急降下する―そんな感覚に近かった。美海は突如として訪れた絶頂に四肢を痙攣させながら耐えた。
 ぐったりとなった美海は、あまりに感じすぎてしまい、しばらくは動けなかった。そんな美海の腰を琢郎は下から抱え上げた。
「さあ、これが欲しかったんだろ、たっぷりと味わえよ」
「―!!」
 美海は悲鳴すら上げることができず、眼を大きく見開いた。琢郎との結婚生活は十一年に及んだが、大体、夫とのセックスはそれほど回数は多くはなく、ましてや、こんなに感じたのも初めてだったのだ。
 あまりにも烈しい行為にも快感にも、美海の身体は慣れてはいなかった。それが烈しい絶頂を迎えたばかりの身体をいきなり、いきり立ったもので刺し貫かれたのだから、堪ったものではなかった。まだ快感の余韻に震え痙攣を続けるいじらしい内壁を剛直で貫かれ、美海は悲鳴を上げて、のけぞった。
 こうなると、気持ち良いのを通り越して、悦がり狂うしかない。快楽地獄がこれ以上続けば、それこそ本当に冗談ではなく、おかしくなりそうだ。
 眼の前が真っ白になって気が遠くなりかけた瞬間、美海の奥深くに侵入した琢郎もぶるっと身体を震わせる。熱い飛沫が最奥で滴るのにすら、美海は気持ち良くて喘いだ。
 琢郎は精を出し切ると、漸く気が済んだというように美海の中から出ていった。
 漸く辛い責め苦から解放されるとホッとした矢先、琢郎が再び美海の身体に手を伸ばしてくる。
 美海は悲鳴のような声を上げた。
「これ以上はもういや」
 が、琢郎は頓着せず、美海を寝台に押し倒し、すんなりした両脚を力任せにひろげる。
「琢郎さん、痛い―」
 これ以上は開かないところまで押し広げられ、股が裂けるのではないかと思った。
 痛みにじんわりと涙が滲んでも、琢郎は容赦なかった。今の夫の頭には美海の身体を奪うことしかないようだ。
 それから二時間に渡って、琢郎は美海を幾度も抱いた。美海がどれだけ訴えても―最後には泣きながら止めてと頼んでも、琢郎は何ものかに憑かれたように美海を犯し続けた。
「どうだ? これでもまだ、俺を能なしだと言うのか?」
 琢郎の満足しきったような表情が酷く醜く歪んで見える。
 美海は何も言わなかった。言えるような状態ではなかったからだ。しばらく火照る身体をベッドに横たえながら、ほんやりと天井を見上げていた。
 私は何をこの男(ひと)に期待していたというのだろう?
 一時間ほどもそうしていただろうか。