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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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無幻真天楼第二部・第三回・弐】坂田さん家のみつるくん

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「顔にやけてるぞ」
「…竜か」
柴田が振り返るとそこには竜之助
「相変わらず神出鬼没だな」
「人のこと言えないだろう」
「人ん家の鳥居の上で言う台詞か?」
2人が立っているのは栄之神社の鳥居の上
「…竜」
「なんだ?」
「お前はハルミさんを幸せにできてるか?」
柴田が聞く
「いや?」
竜之助が答えた
「幸せなわけないだろうな…俺は幸せだがな」
「同じ質問したらハルミさんは何て答えるんだろうな」
「さぁな…」
強めの風が吹いた
「お前はどうだ? 清浄」
「柴田としてなら…俺は幸せだな…」
柴田の背広が風に靡く
「若がいる…それが柴田としての俺の幸せだ」
「…知ってるか清浄」
フッと笑って言った竜之助を柴田が見る
「お前みたいなのショタコンって言うらしいぞ」
「…バカボンのパパみたいな格好のお前に言われたくないんだかな…」
同じくフッと笑った柴田
「これが一番楽なんだ」
そう言った竜之助が腹巻きの中に手を入れた
「そういやお前…京助に余計なこと言ったろ。帰ってくるなり靴下投げつけられたんだぞ」
「はははっ」
柴田が鳥居から飛び降りて着地すると歩き出す
「守るべきものが出来ると強くもなれるが弱くもなれる」
「ああ…そうだな…」
竜之助と柴田が空を見上げた
朧月が雲にかくれ辺りが暗くなる
竜之助が空から目を戻すともうそこに柴田の姿はなかった

「坂田さーん 朝の検温してくださいー」
シャッとカーテンが開けられ朝日が差し込んだ病室
「今日2時に入室予定ですからね」
看護師がカーテンを結びながら坂田に話しかける
嗅ぎなれないにおいにここが病院だと思い出した坂田がもぞもぞと体を起こした
「寝れました?」
「…たぶん」
聞かれてあやふやな答えを返した坂田が脇に体温計をはさんだ
いつの間に寝てしまったのか
記憶がない
覚えているのは柴田が…
ハッとし坂田が布団をはぐった
「…どうしたの?」
いきなりの坂田の行動に看護師が驚く
「…いや…なんでも…ない」
ピピッと鳴った体温計を取りだし看護師に見せた
「ありがとう。じゃあ血圧も計らせてね」
看護師が坂田に笑顔で言った

看護師が部屋を出ていった後坂田がもう一回布団をはぐる
「いねぇ…」
坂田が探しているのは柴田が置いていった式神のツツミ
もしかしたら潰してしまったのかと思ったらしく枕も持ち上げてみた
「…柴田んとこに帰ったんかな…」
布団を適当に足元に丸めて坂田がベッドに寝転がった
寝返りをうつと髪が唇に触れる
母親と同じ色の茶色に近い髪
柴田が好きだった母親と同じ色
長さもだいたい同じ

母には父がいるから
自分が柴田にとっての母の代わりにと伸ばし始めた髪
メガネもそう
別に視力は悪いわけではないのにかけているのは柴田の為
あの日母親の写真を見ていた柴田の寂しそうな顔が忘れられなくて始めた

でもそれは今となっては柴田に自分を見てほしかったからなんじゃないかと思うようになった
母親に似ている自分が母親と同じようにすれば柴田は自分を見てくれるはず
柴田は自分を坂田組の三代目としてしか見ていないような気がして【若】と呼ばれるのが嫌だった
若ではなく深弦としての自分を見ていてほしいと思うようになったのはいつからだろう
素直じゃないのは自分が一番わかっている
変なプライドがあるからだってのもわかっている
「はぁ…」
坂田がため息をついた