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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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無幻真天楼第二部・第三回・弐】坂田さん家のみつるくん

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明かりが消えて暗くなった室内
正月町より都会というだけあって車の行き交う音がしょっちゅう聞こえる
「…寝れん」
むくっと起き上がった坂田が携帯を手に取り開く
画面の右上の時計は11時42分
そこからオーバーテーブルに目を移すと口の開いたコーヒー缶
「飲んだからか…?」
ベッドから降りて缶を持つ
まだ半分残っている中身を一口口に入れた
「寝れなくなんで」
「どうせ寝れんからな…勿体ねぇし…」
「主と同じ匂いだ」
「主…? ああ…柴田か。あいつコーヒー好きだからな…血液コーヒーなんじゃねぇかってくらい」
頭の上にいたツツミに坂田が話す
「…なんだかな…」
坂田がうつむいた
「…もし…目…見えなくなったら…さ…って」
「いきなり話題とんだ」
「…聞けよ; …話し相手なんだろが…」
坂田が頭の上のツツミを掴んで手のひらにのせた
「そんな難しい手術じゃねぇとか言うけどさ…やっぱ…なんか…」
「こわい?」
「全力で怖ぇ」
言い切った坂田がベッドに腰かけた
「目…治るんかな…」
ぽそっと呟く坂田をツツミがじっと見上げる
「なにも見えないとか…見えなくなるとか…」
「若」
「お前まで若って呼ぶんかよ…;…まぁ…柴田のだから仕方ねぇの…かな…」
苦笑いの坂田がツツミの頭を撫でた
「俺の前でもそのくらい素直だと可愛いんですけどね」
「ほざけ」
ツツミの耳がぴくんと動いた
「だから言ったのに…言うこと聞かないからですよ」
「うる…」
暗い病室に響く足音
坂田の目が大きくなる
「主」
「ご苦労さんツツミ」
ぴょんとツツミが跳ねた
「しば…っ!!?;」
「しーッ…消灯時間過ぎてるんですよ若」
人差し指を立てて柴田が笑う
「なんでっ;」
「素直な若を見に来ました」
「すっ…おま…っ;」
しゃがんだ柴田の肩にツツミが飛び乗る
「さ若」
「さ、ってなんだよ;」
「甘えてください」

みしっ

柴田の顔面に坂田の足がのめり込んだ
「ひどいなぁ若;」
「やかましいっ!!; いきなり何言い出すかと思ったら何が甘えろだッ!!;」
顔面を押さえる柴田に坂田が怒鳴る
「若ここ病院ですよ」
「っ…;」
慌てて言葉を飲み込んだ坂田
「どうして俺には素直になってくれないんですか」
「べっ…別にそんなことねぇし…っ…寝るッ!!」
坂田が頭から布団を被った
しばらくしてぎしっとベッドが軋んでポンポンと軽く体を叩かれた
「昔は…素直だったんですがね若」
ゆっくりまるで小さな子供を寝かしつけるかのようにポンポンと坂田の体を叩く柴田
「寂しいなぁ…なんか若がどんどん俺から離れていって」
柴田のため息が聞こえた