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島原あゆむ
島原あゆむ
novelistID. 27645
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無幻真天楼第二部・第三回・弐】坂田さん家のみつるくん

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「…緊那羅君の事考えているんだね」
「なっ…!?;」
「ああほら口から垂れたよ」
いきなり柴田に言われ何とか缶は落とさなかったものの口に残っていたファンタが京助の開いた口から流れた
「なっ…べ…っ…;」
「顔緩んでたよ京助君」
笑いながら柴田が言う
「京助君…君は緊那羅君と操君…どっちが好き?」
「え…」
口をぬぐった京助が顔をあげた
自動販売機のライトに照らされた柴田の顔がまっすぐ京助を見ている
「俺…は…」

もし

今ここに緊那羅と操ちゃんがいて
手を差し伸べられたら
どっちの手を取る?
一瞬頭を過ったその考えの答え

「んなの…決まってんじゃん」
缶を持つ京助の手に力が入った
「操ちゃんはいない今いるのは緊那羅…だから俺…」
柴田がふっと微笑む
「あいつが操ちゃんだったとか今がどうとか…よくわからんけど俺は緊那羅が緊那羅だから緊那羅として緊那羅が好きだ」
「…格好いいよ京助君」
前を向いた柴田がシートベルトをつけエンジンをかけた
「あとはそれを緊那羅君に言えればもっと格好いいんだけどね」
「っ…;」
「竜から聞いたよ? 緊那羅君はちゃんと気持ち伝えたんだって」
「…あの腐れ親父っ;」
眉をひきつらせた京助がメキッとファンタの缶を潰す
「緊那羅君は強いな…俺も見習わないと」
坂の手前でウインカーを上げるとグルッとライトが辺りを一周照らした
その明かりに照らされた人影
「京助君前」
柴田に言われて身をのりだした京助
「噂をすればだね」
「あいつ…は;」
京助がため息をついた
坂を上ってきた車のライトが眩しくて緊那羅が目をつむると

バタン

という音がして続いて足早に足音が近づいてきた
うっすら目を開けると車のライトを背にした
「京助…?」
「お前…なぁ…;」
声を聞いて緊那羅の顔がほころぶ
「鼻水でてんぞ;いつから待ってんだよ…ったく…」
「へへへ;」
ライトに照らされて光る苦笑いの緊那羅の鼻の下を見て京助が呆れてため息をついた
「緊那羅君」
名前を呼ばれた緊那羅が鼻水はそのままで顔つきを変えた
車から降りた柴田を睨みながら京助を背に隠す緊那羅に柴田がゆっくり近づく
「あいかわらず嫌われてるなぁ…;…まず鼻水を拭こうか。可愛い顔が台無しだ」
「やかましいっちゃッ!!」
緊那羅が怒鳴る
「落ち着け;」
「わっ;」
バサッと京助が緊那羅に学ランを被せた
「とりあえずお前は鼻水を拭け」
「京助ッ;」
「はいはいただいまただいま」
「んぶっ;」
ワイシャツの袖口で京助が緊那羅の鼻水を拭う
「京助ッ!!;」
「ははははっ」
そのやり取りを見て柴田が笑うと緊那羅が再び柴田をキッと睨んだ
「悪かったね緊那羅君…京助君をちょっと借りちゃって。若に会わせたくてね」
「若…? 坂田だっちゃ?」
「そ。あいつ入院して手術するんだわ」
「しゅ…?」
緊那羅がきょとんとして京助を見た
「あー…っと…手術ってのは…;」
緊那羅に手術の説明をしようとした京助が指をくるくる回したまま言葉を探す
「体の悪い部分を治すのに体を切ったりして悪い部分を取るんだよ」
「…というのが手術だ」
簡単に説明した柴田の言葉に京助が付け足して緊那羅を見た
「体を…切る…んだっちゃ?」
「そう…だから若に京助君達に少し元気をわけてもらおうとしてね」
柴田がポケットに手を入れながら空を見る
「ああ見えて若…怖がりなんだよ」
緊那羅が京助の学ランを握った
「ごめんね京助君遅くまで。緊那羅君も」
「や…いいんスけど」
「じゃ…俺はそろそろ若の所に戻るよ」
にっこり笑った柴田が車に向かって歩き出す
「ああそうだ」
車のドアを開けた柴田が京助と緊那羅を見た
「手術が終わったらまた若のお見舞いにつれていっていいかな? …今度は緊那羅君も ね」