無幻真天楼第二部・第三回・弐】坂田さん家のみつるくん
まだ日が昇り始めた早朝にカラカラと玄関が開いて緊那羅が外に出た
「寒…っ;」
呟いた緊那羅の手には箒
向かったのは境内
こっちに来てからはじめてやることになった手伝いはそれからずっと毎日緊那羅の日課になっていた
平日は京助を送り出してからやる掃き掃除を土曜日の今日は朝飯の支度の前に終わらせようと寒いのを承知の上で境内への道を歩く
「…あれ…?」
境内の社の階段に誰かが座っていた
パーカーを着た後ろ姿
「京助?」
「おー…」
いつもならまだ寝ているはずの京助がそこにいた
「どうしたんだっちゃ?こんな朝早く…まだ6時前だっちゃよ?」
「あー…ってかお前そりゃ俺が早起きしちゃアカンように聞こえんぞ;」
「や…別にそんなつもりじゃ…;」
緊那羅が慌てて否定する
「でも…本当どうしたんだっちゃ?」
改めて緊那羅が聞くと京助が立ち上がった
「んー…」
「京助…?」
「これ、やる」
ずいっと京助が緊那羅に向かって何かを握った手を出した
「え…?」
「ん」
「あの…」
「ん!」
ずいずいと握った手を突き出す京助に緊那羅がためらいながら両手を開く
チリン
「…これ…リンゴ…?」
緊那羅の掌にあったのは小さな黄色いリンゴのついたストラップ
「お守り」
「お守り…?」
緊那羅がそれを持ち上げるとついている小さな鈴がチリンと鳴った
「やる。前にもらった桜のやつのお返し」
「もらって…いいんだっちゃ…?」
「やるっていってんだろ;」
聞き返す緊那羅に京助がため息混じりに答えると緊那羅がリンゴのお守りを右から下から左からまじまじと見る
「…何してんだ…;」
「えっ!!; あ…や…あの…;」
京助に突っ込まれると緊那羅が驚いて脇に挟んでいた箒を落とした
「だって…あの…」
「んだよ…」
「…嬉し…くて…ありがとだっちゃ京助」
少し頬を赤らめた緊那羅が笑って礼を言うと京助が固まる
「…京助…?;」
「うおっ!!!?;」
しばらくしても動かない京助に緊那羅が声をかけるとおかしなポーズで京助が我に返った
「とっ…とにかくだ!!; うん!!もっとけ!!;」
「うん」
声を微妙にひっくり返しながら言った京助に緊那羅が笑ってうなずく
「よしっ!!; …んならちゃっちゃと掃除終わらすぞ」
「へっ…?」
無理矢理会話を区切った京助が落ちていた箒を拾った
「へっ? じゃねぇよ;掃除手伝ってやるから早く終わらせて朝飯作れ。腹減ってんだよ;んで食ったらまた寝る」
箒を動かしながら言った京助の耳は赤い
緊那羅が黄色いリンゴのお守りを両手で握りしめた
「ほら!! チリトリ!!」
「あっ; うん」
京助に言われて緊那羅がお守りをポケットにしまって駆け出した
作品名:無幻真天楼第二部・第三回・弐】坂田さん家のみつるくん 作家名:島原あゆむ