無幻真天楼第二部・第三回・弐】坂田さん家のみつるくん
「姉さんすいません戸開けてもらえますか?」
柴田が病室に向かって声をかけるとしばらくして戸が開いた
「…みっつ…?」
「すいません」
坂田母を避けて柴田がベッドに坂田を寝かせサンダルを脱がせると頭からかけてあった上着をとる
「寝ちゃったんです」
「おや…まぁ…」
「…きっと昨日寝れなかったんでしょうね」
坂田の無防備な寝顔を覗き込んだ坂田母と柴田が微笑む
「昔っからこの子はアンタに抱っこされるとすぐ寝る子だったねぇ…」
坂田母が坂田の頭を撫でた
「あたしらよりアンタに懐くもんだから…」
「ははは」
柴田が笑う
「柴田柴田って…ね…」
「…それもいつまで続いてくれるんでしょうね…若はどんどん大きくなって…」
坂田がぴくんと動くと坂田母が布団をかけた
「柴田…みっつを…頼んだよ」
「俺でいいんですか?」
「アンタだから頼んでんだ…この子を任せられるのはアンタしかいないんだよ」
坂田母が手の甲で柴田の胸を叩く
「…引き受けました」
柴田がふっと笑ったあとベッドの上の坂田を見た
学校から帰った京助が向かったのは自宅ではなく社務所
「母さんー」
「なぁに?」
そして靴を脱ぎながら奥に声をかけると返ってきた母ハルミの声
「お守りって貰ってよか?」
「お守り?どうするの?」
「あー…坂田が手術するんで差し上げようかと」
鞄を玄関に置いた京助が母ハルミのいる部屋に入ってきた
「あら坂田君が? いいわよそこのタンスに入ってるから適当に選んで持っていきなさい」
母ハルミの指差したタンスを京助が開けた
何個かに仕切られたタンスの中には様々なお守りがあった
「…安産じゃあかんよな…こっちは交通安全…健康になるのか? 健康に」
ぶつぶついいながらお守りを選ぶ京助がふと右端にあったお守りを手にとった
「母さん…お守りもう一個貰っていい?」
「別に構わないわよ?」
「…サンキュ」
手にしたお守りを京助がポケットに入れる
「坂田のはこれでいいか」
そういって京助がつまみ上げたのは赤い布に金色で健康祈願と縫われた一般的なお守り
「俺これから坂田んとこいってくるわ」
「気をつけてね? 坂田君とみのちゃんによろしくいっておいて」
「へいよ」
玄関に置いてあった鞄を肩にかけた京助が社務所を後にした
作品名:無幻真天楼第二部・第三回・弐】坂田さん家のみつるくん 作家名:島原あゆむ