「神田川」の頃
仕事が終わって一緒の電車で話しながら帰った時、「ねえ、お盆休みにね、田舎へ帰ろうと思うの。あんたも一緒に行く?」とヒロコが聞いてきた。
「えっ、どこだっけ田舎」
「岩手県」
「わー、遠いなあ」
「電車を乗り継いでまあ一日がかりだね」
「ふーつ、止めとくよ」
「そう、まあ期待はしてなかったけどね。海を見たくなってね。そして母にもたまに顔を見せなくちゃね」とヒロコは、無理に笑顔を作って言った。
「俺は去年行ったから今年はいいかなあ」
「それじゃ、何するの休みの間」
「うーん、昼まで寝て午後からパチンコかなあ」
「三日間も」呆れたような顔をしてヒロコが言う。
「まあ、誰か友達にどこか誘われたら行くかもしれないけどね」
それからいつもより言葉少なくなったヒロコに、一応どうしたのだろうと思いながら もヒロシは、どうしてよいか分からず、電車を乗り換えるヒロコを「じゃあね」と見送った。