飛行機雲の人
俺は鬱屈とした思考から逃れようと教室に意識を戻し、何気なく再びBに目をやった。
Bという人間。あらためてその存在を観察してみる。
皮膚は真っ青で、体は骨のよう。
そして、ぎょろぎょろと動くだけの目。
…そうだ、Bの目は、生物の授業で解剖をした動物の眼球を思い出す。
メスをいれたら溢れだすゼリーのような硝子体。
それでも、力を強く入れないとなかなか瞳の表面を切ることができなかった。堅くて強靭な死骸。
この人間はすべてが生きていないようにも感じる。
本当にゆうれいのようだ。
幽霊なら夏らしく消えてくれたらいいのに。いちいち嫌な感情を心に浮べる。
ああ違う、幽霊は生きているから化けて出るのだ。
死んでなお、生きている。
(薄気味悪い)
また、心がごちゃごちゃした渦の感情で溢れた。でもそれは正確な真実じゃない…。
…本当は俺は
奴が少し、怖い。
怖いって何だろう。何で怖いのか。
今、夏の俺はおかしい。でも、いつだっておかしい。それは嫌というほど分かっている…。
それでも、心の芯が冷えていく。
B。
地味で存在感のない人間。
どこにでもいるようで、どこにいるのかわからない。