飛行機雲の人
かさ、
紙の擦れる音でふと我に帰る。
Bは素知らぬ顔でプリントをまとめていた。
俺は自分一人でごちゃちゃ考えてるのが急に気恥ずかしくなり、同時にイライラした。
Bの冷たそうなその目が何の温度もないように感じた。
…少し意地の悪い気持ちになる。不愉快な思いをさせてやろうと思った。
わざと質問を投げかける。
「お前さ、夏休み何してんの。海行ったりすんのか」
全く日焼けしていない奴の不健康な肌色を冷めた目で見やる。
自分は馬鹿だ。ガキだ。滑稽だ。そう思いながらも、もう一人の俺は冷静に奴の反応を観察していた。
海。
奴はぽつりと音声を発した。
「それとも高校野球の応援とか。甲子園に憧れてたりして」
とても運動神経なんてなさそうな貧弱な体に向けて言ってやる。
Bは顔を上げ視線をこちらに向けた。
「やきゅう、ボールを打つ…。
海は青い。青くて深い
夏は嫌いじゃない」
Bはまたさっきと同ような言葉を繰り返した。
それだけ。…意味が分からない。(気持ちが悪い)。いや、言葉を返すだけましなのかもしれない……。
返事になっていないように思ったが、そんなこともうどうでもよかった。初めからどうでもいい。
こんな奴との会話に興味もない。意味もない。
俺の思考は溶けだしていた。
ああ、嫌になる。このくそ暑いのに学校に来て、何でこんなことをしているのだろう。
世界はおかしい。
この教室は暑い日差しのせいで真っ暗な影で、窓に切り取られた空にはきつい青しかなくて、感覚がおかしくなってしまう。
空が逆さまになっていても誰も気づくはずがない。
逆さまになっているのは自分だと分かっていても。
空の眩しさと、教室の影の対比は心に空虚と不安をもたらす。あとは限りない羨望。
叶うはずがないのに希望を抱いてしまう。俺にも空になれるんじゃないかって。
このよはすべてわけがわからない。