飛行機雲の人
ふぅ、一息をつく。俺は少しの区切りをつけて手を休めた。
ちらと正面の席のBを見る。Bは静かにただ黙って作業を続けている。確認しなければその存在を忘れてしまいそうなほどだ。
俺は沈黙がすこし嫌になり、何かの音を聞きたくなった。何気なくBに話しかけてみる。
「あっついなあ。毎日嫌になんねえ?」
少しの間が空いた後、Bはこちらを少しだけ見て言った。
「暑いのは嫌いじゃない」
「ふうん、そう」
会話にならない言葉。
はあ。
なんだかすべてが退屈だ。鬱屈した感情がうっすら心に水を張る。
それからまた、沈黙の空間。
”ぴろりろりん”
そのとき間の抜けた音が教室に響いた。携帯の着信音。俺の、だ。
慌てて携帯を取り出して確認する。予想通り彼女からのメールだった。内容は近くのファミレスで待っているというものだった。
俺はこの夏から新しい彼女と付き合い始めた。
顔は可愛い、スタイルも良い、性格も良い。完璧な女の子だ。明るくて眩しい、可憐な花のようだった。
夏は彼女と楽しく過ごすはずなんだ。
幸せであついあつい、嫌になるくらいの蜜の夏。むせかえって苦しければいい。
俺は昔から女に好かれる。それはとても喜ばしいことだ。幸せだろう。顔はもちろん、性格、能力などが、どうやら女の好みに合うらしい。
けれど、ときどき本当にそれが自分のためだけの利点なのか、分からなくなるときがある。俺が女の餌になっているようにすら錯覚する。…まったく、意味不明だ。
俺はいつもこうだ。うじうじと一人で訳の分からないネガティブな渦にばかり沈んでしまう。それがばれると嫌気がさした女に愛想をつかされるとか、まあそんなこともある。
気持ち悪い、情けない、弱い…。子どものころから心がちっとも成長できていない。
女系家族で女に囲まれて育ったせいか、俺は女みたいな精神をしている。
なんて、俺はいつもそんな風に人のせいにして生きてきたな…。
ぐるぐるとした意味のない思考の渦…。