飛行機雲の人
すべてをまとめ終えて俺たちの課題は終了した。課題はBが一人で提出してきてくれるらしい。
俺は一人教室に残った。誰もいない教室。
本当の沈黙を取り戻す。心は静かすぎて何も感じなくなったように錯覚する。
体は先ほどの空にまだ浮かんでいるような気がする。不思議な浮遊感。
俺は心地よい気分で机にうつぶせた。身体はあまり動かしたくないんだ。
そして俺は一人、あの人間を待った。
ふと、目を開ける。……? 頭がぼんやりしている。どうやら俺は眠っていたらしい。
机に突っ伏していた体を起こして周りを見る。時計を確認するとあれから30分くらい経っているようだ。いつの間にそんなに時間が過ぎていたのだろう。
教室を見回す。誰もいない。Bの荷物もなくなっている、…どうやら帰ったらしい。
起こしてくれればいいのに、薄情な奴だ。…いや、起こさないのが親切なのだろうか。どちらか分からない。
奴には代わりに提出しに行った礼くらい言いたかったし、最後の挨拶くらいしようと思っていたのに。
俺だってそれくらいの心はもっているはずだったんだよ。
…まあ、いいや。俺も帰ろう。
教室の鍵を固く締めて、鍵を返しに行った。
この夏の間、あの教室の扉が開かれることはない。
帰り道の廊下で、洗面台の横を通りかかった。なんとなく鏡が目に入る。俺は立ち止って自分の姿を見た。
鏡の中の人間。
顔に水色の跡があった。空が消え忘れたのか。空色はやはり空っぽの色だった。
空をたくさん食べたつもりだったけど、心も体の中も空っぽなのかもしれないなと思った。
それでも俺は満たされていた。
これで夏休みの学校は終わった。
外は真昼だった。
晴れ渡った空はやはり何も無い。ただ青が広がるばかり。
無限のように感じる。
…その時ふと思った。
Bは雲に似ているかもしれない。それも飛行機雲に近い雰囲気がした。