飛行機雲の人
風船
その後は、夏。俺の本当の夏休みが始まった。
俺は美しい夏を見た。
彼女と海に行った、街にもテーマパークにも行った。祭りで彼女の浴衣姿にも心奪われた、花火もした。
バイトもした、友達と旅行にも行った。金はたいがい無くなった。勉強も少しはした。
この夏の間、俺はとても夏でいっぱいに溢れていた。
夏のむせかえる空気を肺いっぱいに吸い込んで、体中に夏を染み込ませた。
……それでも、
ただ夢うつつ。魅惑的な幻にあそんでいたんだ。
すべてを忘れたら、すべてを失えるかもしれない。
すべてから逃げ出したかったのかもしれない。
そんな心は夏のあつい空気を伝播して、人の心に波紋を作る。夏があついから心は苦しむんだ…。
人の感情はきっと隠すことなんかできない。
すべての人の心はきっとつながったひとつの水か何かだとイメージする。
なにも分からない。
分かるのは俺が愚かだということだけだ。
夏の最後。
俺は彼女と別れた。正確にはふられた。あれほど幸せだったのに。
だけど…まあ、それも当然だったから、俺は引きとめることができなかった。
結局俺なんて奴はその程度だ。引きとめる熱い手すらもたない、いい加減な風船の男。…中身がない。
でも、俺は彼女を好きだった。大好きだった。それは本当。
彼女のためなら何だってしてやりたいとか、そんな夢見がちなことすら心密かに思っていた。
けれど、本当は自分のことばかりだ。
自分が彼女といて楽しい、自分が彼女の魅力が欲しい、自分の心を埋めてほしい…。自分を満足させる人形の彼女が欲しいだけだ。
誰でもいいのと変わらない…。
彼女のためになんて言いながら、全部自分のためだった。
俺は彼女の心がどんな風な色をして、何を映していたのかすら知らない。
そして彼女の心を傷つけた。傷つけることにも無頓着だ。
(最低だな…)
愛することすらできてないんだ。結局俺はただの馬鹿なガキだ。
愛せる日が来るのかは知らない。