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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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飛行機雲の人

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飛行機雲、青い空に果てなく向かって消えていったらいい。
尊い誇り、白い幻想。










夏休み、太陽の閃光。すべてはあつく、揺らめく幻だ。


俺の名前はAとする。
目の前の人間。これは誰だったか。顔を見てもまったく思い出せない。
俺は夏休みの教室で、なぜかこの同級生と向かい合っていた。
奇怪な現象だ。じわりとくる蒸し暑い奇妙さ。

この男子生徒、名前をBとする。俺はこいつの名前を思い出せずにいる。
顔も名前もどちらも分からない。
ひどく地味な男で、何の印象もない。
会ったそばからその記憶が霧のように消えていくような存在感の薄い人間だった。
生きた幽霊のようだな。
俺の脳にも問題はあるだろうけれど。

幽霊男B。
俺はこいつが苦手だ。正確に言うとあまり好ましくない。はっきり言うとわりと嫌いだ。
無口で喋らないし、話しかけても微妙な言葉を返してくるだけだ。会話に同調しない。








暑い世界。

夏休み、嫌いな人間、静かな学校、誰もいない教室。
時の止まった空白の場所。


俺とBは授業で出された課題を終わらせるためにここにいた。
二人ひと組での課題だが、俺とBの組だけが学期中に終わっていなかった。
原因は俺が学校を休んだからであり、資料の手違いであり、Bが失敗に気付かなかったからでもある。
誰のせいでもあり、誰のせいでもないかもしれない。
すべてのことは今となってはどうでもいい。
何だってそうだ。あいまいな現実。ゆるやかに襲う波にゆられる。
重要なのは課題を終わらせなくてはいけない、それだけだ。


そんなわけで、夏休みの学校、俺とBは課題に取り組んでいる。課題はすべて最初からやり直しで、結構な量があった。
なんとか夏休みの4日間で終わらせる予定だ。今日と明日、明後日、最終日、で終わり。
それぞれの分担を決めて作業スタート。
…だが、この手はなかなか進まない。少しずつ進めてはいるのだが、どうも集中力が持続しない。
意識が霧のように散漫になってつかめない。


夏は苦手だ。暑すぎると思考があやふやではっきりしなくなる。蒸し暑い霧の中で心がさ迷うように。
おかしな思考に取りつかれて、感情がごちゃごちゃになる。暑い夏は白昼夢なのだろうか。幻で人を毒している。

…それでも何とか頑張らなければ夏を休めない。それから俺は少しの間頑張って課題をこなした。

作品名:飛行機雲の人 作家名:冬野すいみ