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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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飛行機雲の人

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海の水と遊ぶことにも疲れた俺は、砂浜に座って休息を取る。暑い太陽がちょうどいい。体は水と砂にまみれている。
そうやって、ただ、ぼんやりと海と空を眺めていた。青い空。飛行機雲は次第に消えてゆく。ただ、静寂。


蒸し暑い空気。
そのままぼんやりしていると、次第に空が雲に陰ってきた。不思議だ。あんなに晴れ渡っていた青空がだんだんと雲に覆われていく。俺はぼうっとその様子を見ていた。

ぽつり、ぽつり。

そうしているうちに雲は雨を連れてきた。ぽつぽつ、ぽつぽつ、ざあざあ、ざあ…。少しづつ激しくなる通り雨。あっという間に海は灰色の雨の世界に包まれる。俺は雨の中、砂浜に寝転んだ。
ざあざあ。耳障りな音がする。けれど不快ではないのがおかしい。やっぱり俺はおかしい。
このままじゃ風邪をひくんじゃないかななんて、気にもしていないのにそんなことをちらりと思う。

雨は体中に降り注ぎ、髪や肌、瞳、口、手足、爪。再び水びたしになる。もうすでに海の水でびしょ濡れだったのだから同じだけれど。なんだか海の水が流されて今度は雨になっていくような気持ちだった。
いいや、どちらも同じ水なんだ。水は一つ。たった一つだ。

水が体に溶けてゆく。
俺は水に溶けてゆく。

水びたし。

俺は一つ。









…しばらくして雨はやんだ。あっけない終わり。嵐のような通り雨はすべてを洗い流してくれたのかもしれない。
寝転がったままぼんやりとした頭で考える。少しづつ、空は晴れ間をのぞかせてゆく。
青い空だ。



そして、持っていたタオルで軽く髪や体を拭いた後、俺は自転車に乗って帰路についた。今朝来た道を戻ってゆく。次第に強くなってきた太陽の光に、服も髪も少しずつ乾いていく。ペダルをこいで風を切る。風に髪と服がなびくのが心地いい。
心は空っぽになったみたいに軽かった。

空は青いまま。
光。

俺は空と海と風と、飛行機雲。

作品名:飛行機雲の人 作家名:冬野すいみ