飛行機雲の人
青い空。
白い飛行機雲…。
空には飛行機雲がまっすぐな線を引いていた。
憧れ。ああ、思い出した。小さい頃から俺はあんな風になりたかったんだ。何もない大空へ一筋の線を引く。どこまでもまっすぐで白く澄んだ雲。
誰もつかめない青い空。鉄の翼は飛んで行ける。飛行機雲はその誇り、静かな軌跡なんだ。
染みひとつない空白の青空に、たった一筋の線を描いてみせる。
誰にも止めることのできない強い意志だ。
俺は、空という果てない力に一矢報いたような心地がするのかもしれない。
そして無音のままそっと消えていくんだ。
穏やかで美しい。
…しばらく空を見つめた後、俺は空から視線を海に戻した。
波は寄せては返す。裸足の足に水が撥ねる。海の波はそれを永遠に繰り返しているのだろう。気の遠くなる話だ。
永遠なんて簡単に見つかるものなのかもしれない。そして、その永遠は一瞬で終わっていくようにも思えた。俺の命は一瞬だ。星の命も、海の命も一瞬なのだろう。けれど、果てしなく長い永遠…。
青い空、白い飛行機雲、永遠の海。一瞬の永遠…。
綺麗で、綺麗で。眩しくて、悲愴。
俺は無性に泣きたい気持ちになる。悲しいような、幸せなような、不思議な感情だった。海の水のように心に思いが溢れている。
ああ、ああ、嗚呼。
俺の涙は海に還ることができるだろうか。涙は海の味がするから。
目に滲んだ涙は太陽の光を反射してきっと、光っている。それはただ俺の願望かもしれないけれど。それでも、涙は生きているんだ…。
ひとしずくだけ、水を落とした。
海になれ。