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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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飛行機雲の人

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そうしてどれくらい走っただろう。ようやく海にたどり着く。俺は人のいない場所を探してそこに自転車を止めた。


目の前に広がる、海。静かでどこまでも広い、青。きらり、一直線の水平線。眩しい。深い海がそこにいた。生命の水。
風が潮の香りを運んでくる。


海だ。

海は青い、広い、深い。冷たくて気持ちいい。なんだか先日聞いたような言葉が頭をかすめて、また消えた。ああ、そうか、海は冷たいんだ…。
俺はなんだか楽しくなってくる。


海の水に手を浸してみる。ああ、やはり冷たい。そしてその雫を口に含んでみた。しょっぱい塩の味。そういやなんで海の水は塩辛いんだろうな…。小学生の疑問みたいなことを思う。俺は無知。

それから、ズボンの裾をまくって海に入った。ああ、冷たい。水だ。海の水だ。青いのに透明で、すきとおってきらきらしている。
もっと海に触れたいな。そう思い俺は裾が濡れるのもかまわず、水の中をじゃぶじゃぶと進んで行った。砂と石の感触がざらざらする。
海藻やゴミが足にまとわりつくのも、不愉快で楽しい。

そのうち水の中に入ろうと思った。濡れることなんて構いやしない。
なぜか泳ぐつもりはなかったから水着の用意も無くて、服のまま。上着ぐらい脱げばいいとも思ったが、なぜかそのままだ。俺は水浸しになっていた。
太陽に焼けた肌に水はとても心地よかった。後で日焼けして痛むことも夏らしいなんて考える。俺は夏になりたかったのかもしれない。
水はとても冷たい。気持ちいい。海水はしょっぱい。
ぱしゃ、ぱしゃ、ぱしゃん。
水を何度も手で撥ねさせる。その度に光を反射した水は輝く。
光。水。
青い青い、空。
意味なんてない。意味なんてない。意味なんていらないんだ。そうだ、何もいらない。
そして、海は涙の味だ。透明で光り輝くなみだ。

俺はとても笑い出したい気持ちになった。なんだろうおかしいな。とてもおかしい。可笑しい。笑いが出る。



傍から見れば、入水自殺をする人のように見えたかな、なんてぼんやり考える。確か服のまま水に入るのは危険なんだっけ…。危ないことをするのが楽しいとか俺はやっぱり小学生だなと思う。
また、可笑しくなって笑う。おかしいのは俺だ。暑さのせいにするのも馬鹿らしい。馬鹿だ、馬鹿だ。馬鹿なんだ。

そのときふと、空を見上げた。

作品名:飛行機雲の人 作家名:冬野すいみ