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暗行御使(アメンオサ)の秘密~燃え堕ちる月~4

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 今でも眼を閉じれば、文龍の優しい呼び声が風に乗って聞こえてくるようだ。
―そなたは、これからもそなたらしく生きてゆくのだよ。
 もみじあおいの見える庭で、文龍が凛花にくれた言葉だ。最初、凛花自身にも〝自分らしく〟という言葉の意味を理解できずにいた。
―私らしく?
 不思議そうに見上げる凛花に、文龍は優しく微笑みながら教えてくれたのだ。
―そうだ。何をも怖れず、困難を困難とも思わず、試練と受け止めて自力で乗り越えてゆく。そなたの雄々しさに私は惚れた。これから先、何があったとしても、そなたにはその強さ、優しさを失わないで欲しい。
 自分にそんな強さがあるのかどうかまでは判らないけれど、文龍がそう言ってくれたのだから、その言葉を信じよう。哀しみや不安は心の底に封じ込めて、今は前だけを見つめていよう。
 凛花は束の間、何かに耐えるような表情をしたかと思うと、まとわりついて離れない愛しい面影を頭の中から追い出すように緩くかぶりを振った。
 意を決して立ち上がり、もう一度、眼下の都を眺める。凛花の頭上に黎明の空がひろがっていた。
 点景となった都を背景に、今しも日輪が赤々と燃えながら昇ろうとしている。雲間からひとすじの光が差してきた。
 冬の弱々しい光が凛花には強さを秘めたものに見える。あれは希望の光だ。
 朝鮮という国を照らすひとすじの光、凛花に希望を与えてくれる光。
 端整な横顔を今日、生まれたばかりの太陽の光が照らしている。
「そろそろ行くとするかな」
 凛花は振り分け荷物を背負うと、輝く太陽に向かって伸びるひとすじの道をゆっくりと歩き始めた。
                                  (了)





オパール
 宝石言葉―オパールは、鉱物の一種。和名は蛋白石(たんぱくせき)。色の美しいものは宝石として扱われ、十月の誕生石とされている。石言葉は希望、無邪気、潔白、虹の輝き、純粋無垢、幸福を得る、歓喜、忍耐、安楽、名誉の保護、心眼。
 特に日本で好まれている宝石で、乳白色の地に虹色の輝き(遊色効果)を持つものもある。アンチエイジングに効果あり。
 

もみじあおい
 花言葉―一日でしぼむ、一日花だが、次々と咲く。一つの花が咲き終わるのを待って次の花がそっと咲き出す様子には、「穏和」という花言葉がぴったり。 







※注

 なお、作中では、凛花が暗行御使に任ぜられた後、父親や乳姉妹と別離の対面をしていますが、本来は一度、御使の信任状を持つと家族や同僚との面会は許されず、任務を終えるまでは一切を秘密にしなければなりませんでした。
 この話は朝鮮王朝後期の時代を参考にはしておりますが、風俗・しきたり等の細かな設定はあくまでも本編内独自のものもございますので、ご理解頂ければ、幸いです。